1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
目次
労働基準法では、1日の労働時間が8時間、1週間の労働時間が40時間を超えた場合は、25%以上の率で計算をした割増賃金を支払うルールになっているのは、すでにみなさんご存じかと思います。
この他にも平成22年の法改正によって、1か月60時間を超える法定時間外労働に対しては、50%以上の率で計算した割増賃金を支払う必要があります。
ただし、現在のところ、以下の規模に該当する中小企業はこの割増率の適用を猶予されています。
業種 資本金もしくは出資の額 または 常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 または 50人以下
サービス業 5,000万円以下 または 100人以下
卸売業 1億円以下 または 100人以下
その他 3億円以下 または 300人以下
急激に規模が大きくなってきた会社では、「すでに割増率の適用猶予の企業規模ではなくなっていた」ということが実務上起こり得ます。ここ数年で「資本金を増資した」「従業員の人数が増えた」といった会社の経営者や人事担当者は、念のため、確認してみた方がよいでしょう。
また、すでに割増率の適用猶予対象でない会社では、割増賃金率が正しく給与計算に反映されているかどうかを確認してみてください。
今回は、60時間を超える場合の割増賃金率と代替休暇について見ていきたいと思います。
割増賃金率について
前述の通り、1か月の法定時間外労働が60時間を超えると割増率が50%以上になります。それに伴い、60時間を超えた時間の深夜労働の割増賃金率も変わってきます。
割増賃金を支払う場合 時間外労働が1か月60時間以上になった場合の割増賃金率
1 時間外労働 5割以上
2 休日労働 3割5分以上 *60時間未満のときと同じ
3 法定労働時間内の深夜労働 2割5分以上 *60時間未満のときと同じ
4 時間外労働が深夜に及んだ場合 7割5分以上(①+③)
5 休日労働が深夜に及んだ場合 6割以上(②+③) *60時間未満のときと同じ
代替休暇について
1か月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の方の健康を確保するため、 引上げ分の割増賃金を支払う代わりに休暇(代替休暇)を付与することで代用することができます。この制度を導入することで、残業代を圧縮できる効果が期待できますが、割増率がさらに複雑になります。
代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合、それがない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要になります。労使協定で締結する項目は、次の4つの項目です。
1)代替休暇の時間数の具体的な算定方法
代替休暇の時間数の具体的な算定方法は、以下のような計算式で求めることができます。
代替休暇の時間数=(1か月の法定時間外労働時間数-60時間)×換算率
<例>
月の法定時間外労働時間80時間 換算率が0.25(1.5-1.25)だった場合
(80時間-60時間)×0.25=5時間
この5時間が代替休暇を取得できる時間数になります。
2)代替休暇の単位
代替休暇の単位としては、まとまった単位で与えることによって労働者の休息の機会を確保する観点から1日、半日、1日または半日のいずれかによって与える必要があります。
3)代替休暇を与えることができる期間
代替休暇は、特に長い時間外労働を行った労働者の休息の機会の確保が目的になります。そのため、一定の近接した期間内に休暇を与える必要があります。 法定時間外労働が1か月60時間を超えた月の末日の翌日から2か月間以内の期間で与えることを定めてください。
たとえば、4月に60時間以上の法定労働時間を行った場合は、5月と6月の間で代替休暇を消化する必要があるということになります。
4)代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
代替休暇の取得を予定していたにもかかわらず、期間内に取得できなかった場合は、使用者の割増賃金支払義務がなくなりません。当然のことながら、代替休暇として与える予定であった割増賃金分を含めたすべての割増賃金額を支払う必要があります。
つまり、代替休暇制度を導入した場合には、代替休暇の対象となった(なる)1か月60時間超の残業時間数に関しては原則通りの25%以上の割増率、代替休暇を取得できない時間(半端になる時間数を含みます)は50%以上の割増率で賃金計算をすることになります。
最後に
時間外労働が60時間を超えた場合の割増賃金率は、どの時間が50%以上の割増率に該当するのか判断に迷う箇所になります。すでに猶予措置の対象になっていない会社では、給与計算時に使用している時間外労働等の割増賃金率を確認してみてください。
また、中小企業に対する猶予措置は、施行から3年経過後に改めて検討することになっているのですが、現在はまだ猶予措置が続いています。しかし、議論の俎上には上がっているようですので、いつ猶予措置がなくなるかは判りません。
「中小企業だから関係ない」と安心せず、「猶予措置がなくなるかもしれない」ことを前提に、今から対策を検討しておいた方が良いかもしれません。
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