割増賃金の基礎となる賃金
目次
残業代などの割増賃金を計算するには、1時間当たりの賃金額を計算する必要があります。当たり前のようですが、この「1時間当たりの賃金額」の計算方法を間違えているケースがときどき見受けられます。労働基準監督署の調査などでも、良く指摘される事項です。
割増賃金の基礎となる賃金が誤っていると、残業代などの金額も当然正しく計算することはできません。
今回は、割増賃金の基礎となる賃金について、あらためて詳しくみていきたいと思います。
割増賃金とは
会社は、従業員に時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合は、法令で定める以上の率で算定した割増賃金を支払う必要があります。割増賃金率は以下のようになっています。
時間外労働:2割5分以上(1ヶ月60時間を超える場合は、5割以上 ※1)
休日労働 :3割5分以上
深夜労働 :2割5分以上
※1 中小企業については、当分の間適用が猶予されています。
割増賃金の基礎となるのは、所定労働時間に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」です。例えば、月給制の場合、各種手当も含めた月給を1ヶ月の所定労働時間で割って、各自の1時間当たりの賃金額を算出します。
このときに、以下の7つの項目は、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されていることなどにより、基礎となる賃金から除外することが認められています。
1)家族手当
2)通勤手当
3)住宅手当
4)別居手当
5)子女教育手当
6)臨時に支払われた賃金
7)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
この7つの項目は、例として示されているわけではなく、限定的に列挙されているものです。そのため、これらに該当しない賃金については、すべて算入しなければなりません。
また、1)~5)までの手当については、このような名称の手当であれば、すべて基礎となる賃金から除外できるわけではありません。それぞれに除外できる賃金と認められるための要件が定められています。
それでは、多くの会社で支給している「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」の3つについて、具体例をみていきたいと思います。
1)家族手当
割増賃金の基礎から除外できる家族手当とは、「扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」をいいます。
除外できる例:扶養義務のある家族1人につき、配偶者1万円、その他の家族5千円を毎月支給する場合
除外できない例:扶養家族の有無、家族の人数に関係なく、全従業員に対して一律に1ヶ月1万円を支給する場合
2)通勤手当
割増賃金の基礎から除外できる通勤手当とは、「通勤距離または通勤に要する実際の費用に応じて算定される手当」をいいます。
除外できる例:定期券の金額に応じた費用を支給する場合や、通勤距離に応じて定めた金額を支給する場合
除外できない例:実際の通勤距離や交通費にかかわらず、1日につき300円を支給する場合
3)住宅手当
割増賃金の基礎から除外できる住宅手当とは、「住宅に要する費用に応じて算定される手当」をいいます。
除外できる例:賃貸住宅居住者には家賃や面積に応じた割合、持ち家居住者にはローン月額や面積に応じた割合で計算した金額を支給する場合
除外できない例:面積や家賃などは関係なく、賃貸住宅居住者のうち妻帯者には2万円、独身者には1万円を支給する場合
特に「住宅手当」に関しては、労働基準監督署の調査などで「割増賃金に算入すべき賃金であり、結果的に残業代が不足している」との指摘を受けやすい事項です。
それぞれの手当の算出方法を確認し、割増賃金から除外できる賃金なのか否かを確認してみましょう。また、割増賃金から除外できない算出方法の手当であるにもかかわらず、実際の残業代の計算には含まれていない場合は、残業代などの計算基礎に含めるか、あるいは手当の算出方法そのものを見直すようにしましょう。
-
第100回産後パパ休暇と給与計算
-
第99回社会保険の定時決定~その2
-
第98回社会保険の定時決定~その1
-
第97回雇用保険の料率変更
-
第96回定年延長と退職金
-
第95回夜勤シフトの割増賃金
-
第94回休業補償と休業手当
-
第93回社会保険の適用拡大について
-
第92回令和3年の年末調整
-
第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
-
第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
-
第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
-
第88回感染対策費用の課税・非課税
-
第87回兼業、副業の時間外手当
-
第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
-
第85回有給休暇と残業手当
-
第84回在宅勤務手当の非課税計算
-
第83回延長された社会保険の特例改定
-
第82回育児・介護休業法の改正
-
第81回年末調整のイレギュラー対応
-
第80回年末調整の変更点~その2
-
第79回年末調整の変更点~その1
-
第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
-
第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
-
第76回寡婦控除の見直し
-
第75回住民税の特別徴収
-
第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
-
第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
-
第72回休業手当の計算方法
-
第71回源泉所得税の仕組み
-
第70回時間単位の有給休暇付与
-
第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
-
第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
-
第67回フレックスタイム制の改正と残業代
-
第66回健康保険の加入資格と保険料
-
第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
-
第64回介護保険料を徴収するタイミング
-
第63回社会保険における賃金とは
-
第62回労働保険における賃金とは
-
第61回労働基準法における賃金とは
-
第60回出来高払い制の残業代
-
第59回休業手当の計算方法
-
第58回賞与における所得税の計算
-
第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
-
第56回年末調整の変更点
-
第55回社宅制度と労働保険料
-
第54回社宅制度と社会保険料
-
第53回住宅手当と社宅貸与の違い
-
第52回退職金の税務計算
-
第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
-
第50回賃金支払いの5原則~その3
-
第49回賃金支払いの5原則~その2
-
第48回賃金支払いの5原則~その1
-
第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
-
第46回割増賃金の基礎となる賃金
-
第45回年末調整の留意点~その2
-
第44回年末調整の留意点~その1
-
第43回退職者の住民税
-
第42回労働時間の端数処理
-
第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
-
第40回賃金から控除できる項目と労使協定
-
第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
-
第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
-
第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
-
第36回最低賃金の仕組み
-
第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
-
第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
-
第33回今年の年末調整の留意点
-
第32回年末調整における海外居住の扶養家族
-
第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
-
第30回従業員が死亡したとき
-
第29回雇用保険料と介護保険料の免除
-
第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
-
第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第25回1週間単位の変形労時間制度
-
第24回フレックスタイム制の労働時間制度
-
第23回1年単位の変形労時間制度
-
第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
-
第21回管理職への残業代の支払い
-
第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
-
第19回社会保険料の仕組みと変更時期
-
第18回通勤費の決め方と非課税限度額
-
第17回報奨金の現金支給や現物給与
-
第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
-
第15回有給休暇の付与と消滅
-
第14回給与の支給日の決め方やその変更
-
第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
-
第12回標準報酬月額の随時改定
-
第11回年間の給与計算の流れ
-
第10回年末調整の後の諸手続き
-
第09回離婚時の年金の分割制度
-
第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
-
第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
-
第06回就業規則と給与計算の関係
-
第05回給与から引かれるものは?
-
第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
-
第03回賞与の支給と給与計算
-
第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
-
第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料