日本の人事部掲載コラム バックナンバー
第49回  投稿:2018.04.08 / 最終更新:2020.04.15

賃金支払いの5原則~その2

前回より、労働基準法第24条で定められた「賃金支払いの5原則」について、順次紹介しています。
今回は、本人以外への賃金の支払いを原則禁止している「直接払いの原則」をみていきたいと思います。

(労働基準法第24条)

1.賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令もしくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときにはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表するものとの書面による協定がある場合においては賃金の一部を控除して支払うことができる。

2.賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省で定める賃金についてはこの限りでない。

直接払いの原則とは

直接払いの原則は、仲介人や代理人など第三者による賃金の中間搾取(いわゆるピンハネ)を排除し、労働を行った本人に賃金を直接渡すために、「労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止する」というものです。
この原則があるため、他人を介して賃金を支払うことや、あるいは社員の代理人等に支払うことは禁止されています。
たとえば、高校生のアルバイトを採用したときに、「銀行口座を持っていないので、親の口座に振り込んで欲しい」というお願いをされることがあるようです。
たとえ未成年者であっても親や配偶者に給与を支払うことは、「直接払いの原則」に反しますので、このようなお願いは断らなければなりません。かならず労働者本人の銀行口座へ振り込むか、口座がなければ直接手渡しで支払うようにしましょう。

また、ごく稀にですが、社員が借金をしておりその賃金債権が金融業者に譲渡され、その金融業者が会社に賃金の支払いを求めてくるケースもあります。
社員が賃金債権を正式に譲渡した場合でも、その譲渡人への賃金支払いは「直接払いの原則」に違反するという判例が出ていますので、金融業者から支払いを求められても断る必要があります。(電電公社小倉電話局事件 最三小判昭和43・3・12)。

なお、賃金が民事執行法や国税徴収法などの法律に基づき差し押さえられ、差押債権者が取立権限を取得した場合には、差押債権者に支払ってもよいと解釈されています。
実務上は、市区町村からの住民税や国民健康保険料等の滞納の差し押さえや裁判所からの差押命令など以外は、賃金の一部であっても第三者に支払うことはしないようにしましょう。

直接払いの原則の例外

「直接払いの原則」の例外として、使者に対して賃金支払うことは差し支えないとされています。「代理人」に支払うのはダメで、「使者」なら良いということなのですが、使者と代理人の違いが明確に定められているわけではありません。
一般的には、「直接払いの原則」の趣旨と社会通念上の解釈に照らし合わせて判断します。具体的には、病欠している社員の家族が本人の代わりに賃金を会社に取りに来るといったようなケースは「使者」として判断してもよいでしょう。
使者は文字通り「使いの者」なので、使者の銀行口座に支払うのは直接払いの原則から逸脱します。また、給与を口座振込で支払っている場合には病欠していても賃金を受け取れますので、使者に手渡すのではなく、本人の銀行口座に振り込むようにしましょう。

他にも、派遣中の労働者の賃金を「派遣先」の使用者を通じて支払うこともあります。この場合は、派遣先の会社が派遣労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を預かって手渡すだけであれば、直接払いの原則には違反しないとされています。

 

今回は、「直接払いの原則」についてみてきました。市区町村や裁判所を通した差し押さえ等以外は、たとえ親権者や配偶者であっても第三者には支払うことができないと理解していただければと思います。

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