日本の人事部掲載コラム バックナンバー
第53回  投稿:2018.08.02 / 最終更新:2020.04.21

住宅手当と社宅貸与の違い

福利厚生制度の一環として、会社が従業員に対して住宅の援助をするには、毎月定額の住宅手当を支給する方法と、社宅として従業員に住居を提供する方法があります。
住宅手当を支給するのと、社宅制度を導入して住居を提供するのはどちらが有利なのでしょうか。

制度を正しく理解して実施するのであれば、金銭的には「社宅制度」として導入する方が有利と言われています。
今回は、住宅手当と社宅制度の違いについて見ていきます。

住宅手当の支給

要件を満たしている従業員に対して、毎月定額の住宅手当を給与に上乗せして支給する場合は、「課税所得」になり、所得税の対象になります。
また、健康保険や厚生年金保険、雇用保険といった社会保険料の算定対象にも含まれます。そのため、手取りの給与は住宅手当の額面より少なくなります。

また、会社負担を考えた場合は、社会保険や労働保険の算定対象となるので、従業員に支給する住宅手当のほかにこれらの負担も発生します。さらに、住宅手当の算定方法によっては、割増賃金の計算基礎に含める必要がありますので、この場合は、残業代等を計算するときの時間単価が増えることになります。

社宅制度の所得税

「社宅」制度とは、会社が所有する物件を従業員に貸与したり、会社が契約者となって賃貸物件を契約し、従業員を居住させる制度です。
会社負担分の家賃については、会社の経費となります。また、従業員から「社宅使用料」などの名目で、1か月当たり一定額の家賃以上を受け取っていれば、給与所得として課税されることはありません。

賃貸料相当額とは、次の(1)~(3)の合計額をいいます。

(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

従業員に無償で貸与する場合には、この賃貸料相当額が給与として課税されることになります。従業員から賃貸料相当額より低い家賃だけを受け取っている場合には、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が、給与として課税されることになります。
ただし、従業員から受け取っている家賃が、「賃貸料相当額の50%以上」であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与として課税されません。

自社で所有する物件を従業員に貸与するのであれば、固定資産税の課税標準額などを把握できますので、原則の方法で賃貸料相当額を計算し、従業員が支払う社宅使用料を設定しましょう。

会社が他から借り受けた社宅や寮などに従業員を居住させる場合にも、本来は家主等から固定資産税の課税標準額などを確認して、賃貸料相当額を計算する必要があります。しかし、現実的には、家主等から固定資産税の課税標準額を確認するのは簡単ではありません。
固定資産税の課税標準額以下で賃貸借契約をしてくれることは考えにくいので、役員を居住させる場合の賃貸料相当額の計算方法に出てくる「会社が家主に対して支払う賃貸料の50%以上」を従業員本人から徴収しているケースが多いようです。

具体的な例として、賃貸料相当額が10万円の社宅を従業員に貸与した場合を見ていきます。

(1) 従業員に無償で貸与する場合には、10万円が給与所得として課税されます。
(2) 従業員から3万円の家賃を受け取る場合には、賃貸料相当額である10万円と3万円の差額の7万円が給与所得として課税されます。
(3) 従業員から6万円の家賃を受け取る場合には、賃貸料相当額である10万円の50%以上を本人が負担していますので、差額の4万円全額が非課税となります。

仮に従業員本人が賃貸物件を契約し、(3)の差額4万円を住宅手当として支給する場合は、この4万円が課税所得として所得税の対象になります。また、次年度以降の住民税額にも反映されます。

今回紹介した税務上の計算では、社宅制度の方がメリットがあるような感じがします。ただし、他から借り受けた社宅や寮を利用する場合は、敷金や礼金、更新料等の負担が発生したり、会社が契約をする手間や従業員が退職してしまったときにどうするかという問題も生じることがあります。
なお、「社宅使用料」などの名目で給与から天引きする場合は、労使協定を締結する必要がありますのでご注意ください。

今回は、住宅手当で支給する場合と、社宅制度を行う場合の所得税の課税の考え方を説明しました。次回は、社宅制度を行う場合の労働保険料や社会保険料の考え方について見ていきたいと思います。

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