健康保険の加入資格と保険料
目次
給与計算の業務を行う上で、もっともミスを起こしやすいのは、やはり社会保険料等の天引きに関することです。これは、従業員の年齢等の理由によって徴収するかしないかが決定される仕組みになっていることと、保険料の種類によってその基準が異なるためです。
前々回は介護保険料、前回は厚生年金保険料について説明しました。今回は、健康保険料の徴収について見ていきたいと思います。
健康保険の加入年齢
健康保険の適用事業所に就職をし、加入要件を満たすと健康保険の被保険者となります。ここで注意が必要なのが、適用事業所に就職したからといってかならず健康保険に加入するとは限らない点です。
加入資格があるかないかは、労働日数や労働時間により定められています。具体的には、「1週間の所定労働時間」と「1か月の所定労働日数」が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の「4分の3以上」であれば、健康保険の加入資格を有することになります。裏を返せば、1週の所定労働時間か1か月の所定労働日数の「どちらか」が4分の3未満であれば、健康保険には加入できません。
最短で健康保険に加入できる年齢は、中学を卒業してフルタイムで就職する方であれば、15歳で加入することになります。ここまでは、前回紹介をした厚生年金保険と同様の考え方です。
厚生年金保険との違いは、加入できる上限の年齢です。厚生年金保険は原則として70歳まで加入しますが、健康保険については「75歳まで」になります。75歳に達すると「後期高齢者医療制度」に移行になり、適用事業所での健康保険制度からは外れます。
健康保険料の徴収方法について
厚生年金保険と同様に、会社は毎月の給料や賞与から被保険者負担分の保険料を差し引いて、会社負担分とあわせて、翌月の末日までに保険料を納めます。
健康保険料は、被保険者資格を「取得した月」から資格を「喪失した月の前月」までの分を「月単位」で納めます。入社時は、何日に入社したとしてもその月の保険料から徴収します。1日入社でも25日入社でも同じ月から徴収が始まりますので間違いにくいような感じがしますが、給与の締め日が月末でない会社の場合は、入社月の保険料を徴収できないケースがあります。
例1)8月26日入社で、給与締日25日、給与支払日翌月5日、保険料は翌月徴収の会社のケース
資格取得日は8月26日なので、保険料は8月分から発生します。通常のケースだと保険料は翌月徴収なので、8月分の保険料は9月5日支給の給与から天引きします。ところが、賃金締日後に入社しているので、9月5日に支払われる給与がありません。
このような場合は、支払うべき給与がなくても、保険料は徴収しなければならないので、翌月の給与で2か月分の保険料を徴収するなどして調整する必要が出てきます。
退職時の徴収方法について
次に退職の場合を見てみましょう。退職の場合は月末まで在籍しているか否かがポイントになります。
例2)8月31日退社の場合
喪失日は、退職日の翌日となるので9月1日になります。そのため、喪失した月の前月である8月分までの保険料を徴収します。
例3)8月30日退社
喪失日は、8月31日となります。そのため、喪失した月の前月である7月分までの保険料を徴収すればよいことになります。
つまり、月末に退職したのでなければ、最後の月の保険料は必要ありません。ただし、入社した月に月末まで在籍せずに退職してしまった場合は、原則としてその月の保険料が必要になります。
75歳到達時の徴収方法について
ここまで説明した入社や退職の場合の保険料の徴収方法の考え方は、前回説明した厚生年金保険と一緒です。しかし、上限年齢時の取扱いは、厚生年金保険と多少異なります。
先ほど説明したように、75歳になった場合は、後期高齢者医療制度に移行しますので、健康保険の資格を喪失します。前回説明した厚生年金保険は70歳までで、その場合の喪失日は誕生日の前日でした。
しかし、75歳になって健康保険を喪失する場合の資格喪失日は「75歳の誕生日」になります。この部分については、厚生年金保険や前々回の介護保険とは異なるので注意が必要です。
例4)8月1日が誕生日の場合
喪失日は、誕生日となるので8月1日になります。そのため、喪失した月の前月である 7月分までの保険料を徴収する必要があります。
例5)7月31日が誕生日の場合
喪失日は7月31日となります。そのため、喪失した月の前月である6月分までの保険料を徴収し、7月分は徴収しなくてよいことになります。
健康保険と介護保険、厚生年金保険はすべて同じ仕組みと勘違いされている方も多いようですが、徴収しなくなる年齢がそれぞれ異なること、喪失日の考え方が健康保険だけ誕生日当日で考えることなど、微妙に異なる点があります。近年は高齢者の在職者が増えてきており、今後ますます増加していくことが想定されます。
給与計算の担当者は、年齢による喪失日の考え方を正しく理解していただければと思います。
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