厚生年金保険保険料の上限引き上げ
令和2年9月1日より、厚生年金保険料の標準報酬月額等級の上限が「第31級」から「第32級」に引き上げられることになりました。該当者については、9月以降の給与計算において、旧上限の保険料のまま計算しないように注意する必要があります。
今回は、厚生年金保険の上限改定についてみていきたいと思います。
なぜ今、上限改定が行われるのか
日本社会全体に新型コロナウイルスの影響が出ている中で、厚生年金保険料の上限が改定されることに疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
実は、次の条件に該当した場合に、健康保険や厚生年金保険の上限改定が行われることになっています。
健康保険:
標準報酬月額の上限該当者が、3月31日現在で全被保険者の1.5%を超えた場合は、政令で その年の9月1日から一定範囲で標準報酬月額の上限を改定することができる
厚生年金保険:
年度末時点の全厚生年金被保険者の平均標準報酬の2倍が、標準報酬月額の上限を上回る状態が継続すると見込まれた場合は、その年の9月1日から政令で上限を引き上げることができる
令和1年10月30日に開催された第13回社会保障審議会年金部会の資料「現行の厚生年金保険法の規定に基づく標準報酬月額等級の改定について」によると、平成28年より、各年度末時点で、全厚生年金被保険者の平均標準報酬の2倍が標準報酬月額の最高等級である62万円を超えている状況が続いていました。
今後も継続する可能性が高いため、令和2年9月1日から上限改定が行われることになったのです。
健康保険の上限は、改定されませんが、保険料率について厚生年金保険と仕組みが違う部分がありますので改めて説明したいと思います。
健康保険には、大きくわけて、政府が行う「協会けんぽ」と「健康保険組合」が行うものがあります。協会けんぽは、都道府県支部ごとに保険料率が異なりおおむね毎年3月に保険料率が見直されます。
健康保険組合は、法律の範囲内で独自に保険料率を決定することができるため、協会けんぽの保険料率とは異なります。健康保険組合も組合ごとの財政状況などを勘案して保険料率が見直されますので、組合からの案内等に注意する必要があります。
なお、40歳以上65歳未満の従業員については、介護保険料を一緒に徴収します。介護保険料率は、協会けんぽでは全国一律、健康保険組合は組合ごとに異なります。
会社がどの社会保険制度に加入しているかと、その仕組みを正確に把握し、適切な保険料計算をすることが重要です。
厚生年金保険の標準報酬月額の上限改定について
令和2年9月1日より、厚生年金保険の現在の標準報酬月額の最高等級(第31 級・62 万円)の上に、新たな等級(65 万円)が追加されます。健康保険の標準報酬月額の最高等級(第50 級・139 万円)については変更ありません。
改定前の上限等級
月額等級 標準報酬月額 報酬月額
(旧)第31級 620,000円 605,000円以上
改定後の上限等級
月額等級 標準報酬月額 報酬月額
(新)第31級 620,000円 605,000円以上635,000円未満
(新)第32級 650,000円 635,000円以上
厚生年金保険料はいくら増額するのか?
650,000円の標準報酬月額に該当すると、厚生年金保険料の労使の負担合計は118,950円(折半額:59,475円)です。現在の最高等級である620,000円の労使負担額は、113,460円(折半額:56,730円)です。今回の上限改定によって、労使で負担する保険料は5,490円(折半額:2,745円)増額されます。
上限改定については、会社が手続きを行う必要はありません。行政が判定を行い、自動的に改定されます。改定後の新等級に該当する被保険者の方がいた場合、令和2年9月下旬以降に日本年金機構から「標準報酬改定通知書」が送付されてきます。
社会保険料を当月の給与で徴収している会社など、給与計算の時期や保険料の徴収のタイミングによっては、改定通知書の前に計算を行わなければならないケースも出てくると思います。
9月分の社会保険料は標準報酬月額算定の反映もあります。算定の反映とともに、上限改定に該当する方の厚生年金保険保険料は、特に注意するようにしましょう。
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