年末調整のイレギュラー対応
前々回と前回で、令和2年の年末調整における変更点を説明しました。
今回は、法改正事項ではありませんが、年末調整の計算後に控除対象扶養親族が変更になった場合や、控除対象扶養親族が死亡した場合などについてみていきたいと思います。
年末調整後に控除対象扶養親族が変更になった場合
年末調整は、その年の最後の給与や賞与を支払うときに行います。そのため、扶養控除や配偶者控除は、最後の給与を計算する日で判断せざるを得ません。
しかし、年末調整を行った後に、結婚や離婚等によって控除対象扶養親族が変更になる場合があります。所得税法では、その年の12月31日の現況で控除対象扶養親族の判定を行うルールになっています。給与や賞与を支払った後に、結婚や離婚をして控除対象扶養親族が変更になった場合には、年末調整をした税額と納税すべき金額が変わってしまいます。このような場合、「年末調整をやり直す方法」と「確定申告を行う方法」の2パターンがあります。
扶養控除対象親族などの人数が増える場合は、最初に計算した税額が多すぎる(取りすぎている)ことになります。
年末調整のやり直しを行うときには、その年分の源泉徴収票を作成・交付する日までに本人から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受けるようにしましょう。年末調整のやり直しをしない場合には、本人が、確定申告によって所得税及び復興特別所得税の還付を受けることができます。
一方、控除対象扶養親族などの数が減る場合は、税額が不足していることになります。この場合は確定申告ではなく、本人から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受け、年末調整をやり直して不足した所得税の徴収をします。なお、徴収不足税額がある場合の年末調整のやり直しについては、その異動があった年の翌年の1月末日以降であっても行う必要があります。
年末は、何かと慌ただしくなることが多いと思います。可能な限り年末調整の再計算を避けるため、年末調整を行う前に扶養の変更の情報を把握しておくことが重要です。
控除対象扶養親族が年の途中で死亡した場合
扶養をしていた配偶者や扶養親族が死亡した場合は、死亡した時点で判定します。その時点で、控除対象配偶者や控除対象扶養親族の要件を満たしていれば、その年は控除の適用を受けることができます。したがって、年末調整時にすでに死亡している場合であっても、死亡した年までは控除対象配偶者や控除対象扶養親族にカウントします。
ときどき、すでに死亡していることから、控除対象から外して年末調整をしているケースがあるようなので注意しましょう。また、1月以降の給与計算からは、控除対象から除くことも忘れないようにしましょう。
従業員が死亡した場合
従業員が年の途中で死亡した場合も年末調整を行う必要があります。ただし、通常の年末調整と異なり、相続財産に当たる部分は年末調整の対象となる「給与所得」からは除外します。
死亡した従業員の給与で、死亡後に支給期が到来するものは、所得税を控除する必要はありません。これは、死亡日後に支給期が到来する賃金は、死亡した従業員の「給与所得」ではなく、相続税の対象となる「相続財産」とみなされるからです。よく誤解を生じるのが、賃金の締日と支払日のどちらで判断するかという点です。
ここでいう「支給期」とは、通常の賃金の支払日を指します。たとえば、末日締翌月25日支払いの給与であれば、この「翌月25日」が支給期にあたり、この日が死亡日の前後いずれかであるかを判断します。
仮に、8月15日に死亡した場合だと、7月の1ヶ月分と8月1日~15日までの給与がそれぞれ8月25日と9月25日に支払われます(支給期)。この2回は、いずれも死亡日後に支給期が到来しているので、どちらも相続財産です。反対に、7月25日支給の給与が何らかの事情で支払いが遅れ、死亡日の8月15日より後に支払われたとしても、支給期(7月25日)は死亡日前なので通常の給与所得とみなされます。
なお、従業員が死亡した場合は、年の途中でも年末調整を行う必要があります。この場合でも、死亡後に受け取る給与については相続財産になるため、年末調整の対象外となり、その分を収入から除外して計算します。先ほどの例だと、7月25日支給の給与までを年間所得として、年末調整を行うことになります。
また、従業員が死亡した場合には、その相続人が死亡した従業員の確定申告(いわゆる「準確定申告」)を行う場合があります。そのため、年末調整の計算後は、被相続人の所得金額を確認するための資料として、相続人に源泉徴収票を交付してください。源泉徴収票には、「死亡退職」欄に「○」を表示することが必要になります。
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