日本の人事部掲載コラム バックナンバー
第87回  投稿:2024.07.24 / 最終更新:2024.07.17

兼業、副業の時間外手当

ここ最近、副業や兼業を行う方が増加しています。職種が多様になってきたことが要因の一つですが、新型コロナウィルス感染拡大の影響も少なからずあるようです。

前回は、複数の事業所で働いている場合の社会保険の取り扱いと保険料の計算方法について説明しました。今回は、複数の事業所で労働した際の「労働時間の考え方」と「時間外労働の計算方法」についてみていきたいと思います。

労働時間の原則的な考え方について

労働基準法では1 日(8時間)と 1 週の労働時間(40時間)ならびに休日日数(毎週少なくとも1日、もしくは4週間で4日)を定めています。原則として、この時間数や日数を超えて従業員を労働させてはなりません。しかし、現実的に繁忙期等で労働時間が伸びてしまうこともあるため、例外として、時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36 協定」)が存在しています。

36協定を締結して労働基準監督署長に届け出れば、法定労働時間を超える時間外労働および法定休日における休日労働が認められます。36協定は、監督署に届け出て、初めて効力を有しますので、事前の届け出が必須です。

副業や兼業を行った場合の労働時間の考え方について

労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とされています。簡単に言えば、午前中に4時間働き、午後に3時間別の場所で働いた場合は、その日の労働時間は7時間としてカウントされるということになります。

ただし、業種や契約形態によって、労働時間の通算が行われない場合もあります。労働時間の通算が行われないケースは、次の通りです。

1)労基法が適用されない場合

例 フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等

2)労基法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合

例 農業、畜産業、養蚕業、水産業、管理監督者、機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度が適用される労働者

割増賃金率について

労働基準法上定められている労働時間である、1日8時間、1週40時間を超えた場合や法定休日、午後10時から午前5時までの深夜の時間帯に労働させた場合は、事業主は割増賃金を支払う必要があります。

それぞれのケースの割増賃金率は、以下のように定められています。


1)時間外労働・・・2割5分以上(1か月について60時間を超える場合は5割以上 *中小企業は2023年3月末日まで適用猶予)

2)休日労働・・・・3割5分以上

3)法定労働時間内の深夜労働・・・2割5分以上

4)時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上(1か月について60時間を超える場合は7割5分以上 *同上)

5)休日労働が深夜に及んだ場合・・・ 6割以上

副業や兼業を行った場合の時間外労働の計算方法について

複数の事業所で労働した時間を通算した結果、法定労働時間を超えて労働した場合は、割増賃金を支払う必要があります。割増賃金の支払い義務を負うのは、原則は副業や兼業を行っている労働者を使用している側の使用者です。

少しややこしいと思いますので、いくつか例をあげてみていきたいと思います。

【例1】A社で1日8時間勤務した労働者が、勤務終了後にB社で5時間の勤務した場合

A社の労働時間は8時間であるため、残業を行わない限りA社には割増賃金の支払い義務はありません。B社で勤務する時には、すでにその日に8時間労働を行っているため、B社で労働する時間は、すべて法定時間外労働時間となります。

そのため、B社で労働した5時間は法定時間外労働であり、その労働について、B社は割増賃金の支払いを行わなければなりません。

【例2】A社で、月曜日から金曜日まで8時間勤務し、土曜日にB社で5時間勤務した場合

A社での1日の労働時間は8時間です。月曜日から金曜日まで5日間あるので、週の労働時間は40時間となります。週40時間であれば法定労働時間内の労働となるため、A社に割増賃金の支払い義務は生じません。

B社で土曜日に5時間労働すると、A社の労働時間だけですでに週の法定労働時間に達しているため、土曜の労働はすべて法定時間外労働となります。そのため、B社は、5時間の労働に対して割増賃金の支払いを行わなければなりません。

【例3】A社と「労働時間3時間」という労働契約を締結している労働者が、新たにB社と、A社における労働日と同一の日について、「労働時間3時間」という労働契約を締結し、ある日にB社で6時間労働して、その後A社で4時間労働した場合

後からB社と雇用契約を締結した段階では、労働者がA社とB社で労働契約とおりに働くのであれば1日の労働時間は6時間となるので、法定労働時間の範囲内になります。

B社での勤務が終了してから、A社で働くことになっている日に、B社で労働時間を3時間延長した場合、その日はまだ6時間しか働いていません。しかし、その日にA社で3時間働くことはすでに分かっている(所定労働時間)ので、その3時間を足すと9時間になります。したがって、B社では1時間の割増賃金を支払う必要があります。

その後、A社に移動し、A社でも1時間延長しました。この場合は、すでにその日の労働時間が8時間に達しているので、A社でも1時間の割増賃金を支払わなければなりません。

副業や兼業を行っている労働者の給与計算が難しいのは、自社だけで計算が完結することができないという点です。会社間で情報の共有をすることは通常行われないため、計算をする場合は労働者の申告によって把握せざるを得ません。

申告の方法は、相手先の一週間の労働時間を週明けに報告させるなどの方法が考えられます。給与計算を行う際に漏れが生じないように、事前に申告方法を徹底しておいた方が良いでしょう。


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