社会保険の適用拡大について
法改正によって、パート・アルバイトで勤務している方の社会保険の加入条件が変わることとなりました。企業にとって、社会保険料は大きな負担となりますので、経営判断を誤らないためにも、しっかりと準備をしていく必要があります。
今回は、社会保険の適用拡大について説明したいと思います。
社会保険加入の基準
パートタイマー・アルバイトでも、会社に常用的に使用されているのであれば、原則として社会保険の被保険者となります。しかし、時間や日数が少ない(受け取る給与額が少ない)方を被保険者とするのは、扶養家族の概念をなくすことにもつながります。
そのため、一定の基準以下で働く方については、社会保険に加入することができません。
被保険者として加入する基準は、「1週間の所定労働時間」および「1か月の所定労働日数」が、同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上の場合です。
つまり、正社員と比べて、労働日数と労働時間の両方が4分の3以上の非正規社員は被保険者として社会保険に加入し、どちらか一方でも満たさない場合は加入しないことになります。
ここでのポイント、は所定労働時間「および」所定労働日数となっていることです。たとえば、正社員が週5日、1日8時間勤務の会社では、次のような働き方は、被保険者となる要件を満たしません。
1)正社員と同じ週5日勤務だが、週の所定労働時間が30時間に達しない(1日5.5時間のパートタイマーなど)場合
2)1日8時間で勤務しているが、働く日は月水金の3日(週5日の4分の3未満)の場合
従業員数501人以上の企業の非正規社員の社会保険加入について
原則は前述の通りなのですが、厚生年金保険への加入拡大を目的として、2016年10月から従業員数501人以上の企業のパートタイマー・アルバイトの加入要件が緩和されています。
501人以上の大企業(特定適用事業所)では、次の4つの要件を満たした非正規社員は「短時間労働者」として健康保険と厚生年金保険の被保険者になります。
1)週の所定労働時間が20時間以上あること 2)雇用期間が1年以上見込まれること 3)賃金の月額が88千円以上であること 4)学生でないこと |
被保険者数が常時500人を超えているか否かは、同一の法人番号を有するすべての適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者数で判断します。つまり、事業所単位ではなく、「企業全体」の被保険者数で判断すると捉えてください。
企業全体で、12か月のうち6か月以上で500人を超えることが見込まれる場合は、短時間労働者を社会保険に加入させる必要があります。なお、いったん特定適用事業所になった場合は、その後被保険者数が500人以下になったとしても、被保険者の4分の3以上の同意がない限り、取り消すことはできません。
2022年10月からの非正規社員の社会保険加入について
法改正に伴い、2022年10月から、非正規社員の社会保険の適用が拡大されることになりました。2022年10月からは、次の要件すべてを満たした非正規社員は「短時間労働者」として健康保険と厚生年金保険の被保険者になります。
2016年10月からスタートしている要件と変更があった部分については、アンダーラインを引いています。
1)従業員数101人以上の企業であること 2)週の所定労働時間が20時間以上あること 3)2か月を超える雇用の見込みがあること 4)賃金の月額が88千円以上であること 5)学生でないこと |
2024年10月からの非正規社員の社会保険加入について
さらに、2024年10月からは、従業員数51人以降の企業に社会保険の適用が拡大されます。
1)従業員数51人以上の企業であること 2)週の所定労働時間が20時間以上あること 3)2か月を超える雇用の見込みがあること 4)賃金の月額が88千円以上であること 5)学生でないこと |
今回は、社会保険の適用拡大について紹介をしました。多くのパート・アルバイト従業員の方を抱えている企業にとっては、大きな影響がある改正だと思います。
改正が行われるのは2022年10月(51人以上の企業は2024年10月)になっています。直前になってあわてることのないように、今からパート・アルバイト従業員の方の雇用契約内容等を確認し、今後の方針を決めていくことが大切です。
鈴与シンワート株式会社が提供する人事・給与・勤怠業務と財務・会計業務ソリューションはこちらからご覧ください。
-
第100回産後パパ休暇と給与計算
-
第99回社会保険の定時決定~その2
-
第98回社会保険の定時決定~その1
-
第97回雇用保険の料率変更
-
第96回定年延長と退職金
-
第95回夜勤シフトの割増賃金
-
第94回休業補償と休業手当
-
第93回社会保険の適用拡大について
-
第92回令和3年の年末調整
-
第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
-
第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
-
第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
-
第88回感染対策費用の課税・非課税
-
第87回兼業、副業の時間外手当
-
第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
-
第85回有給休暇と残業手当
-
第84回在宅勤務手当の非課税計算
-
第83回延長された社会保険の特例改定
-
第82回育児・介護休業法の改正
-
第81回年末調整のイレギュラー対応
-
第80回年末調整の変更点~その2
-
第79回年末調整の変更点~その1
-
第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
-
第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
-
第76回寡婦控除の見直し
-
第75回住民税の特別徴収
-
第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
-
第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
-
第72回休業手当の計算方法
-
第71回源泉所得税の仕組み
-
第70回時間単位の有給休暇付与
-
第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
-
第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
-
第67回フレックスタイム制の改正と残業代
-
第66回健康保険の加入資格と保険料
-
第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
-
第64回介護保険料を徴収するタイミング
-
第63回社会保険における賃金とは
-
第62回労働保険における賃金とは
-
第61回労働基準法における賃金とは
-
第60回出来高払い制の残業代
-
第59回休業手当の計算方法
-
第58回賞与における所得税の計算
-
第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
-
第56回年末調整の変更点
-
第55回社宅制度と労働保険料
-
第54回社宅制度と社会保険料
-
第53回住宅手当と社宅貸与の違い
-
第52回退職金の税務計算
-
第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
-
第50回賃金支払いの5原則~その3
-
第49回賃金支払いの5原則~その2
-
第48回賃金支払いの5原則~その1
-
第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
-
第46回割増賃金の基礎となる賃金
-
第45回年末調整の留意点~その2
-
第44回年末調整の留意点~その1
-
第43回退職者の住民税
-
第42回労働時間の端数処理
-
第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
-
第40回賃金から控除できる項目と労使協定
-
第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
-
第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
-
第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
-
第36回最低賃金の仕組み
-
第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
-
第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
-
第33回今年の年末調整の留意点
-
第32回年末調整における海外居住の扶養家族
-
第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
-
第30回従業員が死亡したとき
-
第29回雇用保険料と介護保険料の免除
-
第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
-
第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第25回1週間単位の変形労時間制度
-
第24回フレックスタイム制の労働時間制度
-
第23回1年単位の変形労時間制度
-
第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
-
第21回管理職への残業代の支払い
-
第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
-
第19回社会保険料の仕組みと変更時期
-
第18回通勤費の決め方と非課税限度額
-
第17回報奨金の現金支給や現物給与
-
第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
-
第15回有給休暇の付与と消滅
-
第14回給与の支給日の決め方やその変更
-
第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
-
第12回標準報酬月額の随時改定
-
第11回年間の給与計算の流れ
-
第10回年末調整の後の諸手続き
-
第09回離婚時の年金の分割制度
-
第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
-
第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
-
第06回就業規則と給与計算の関係
-
第05回給与から引かれるものは?
-
第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
-
第03回賞与の支給と給与計算
-
第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
-
第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料