休業補償と休業手当
目次
労働者災害補償保険(以下「労災保険」といいます。)は業務上の事由や通勤によって従業員が負ってしまった怪我、病気、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを第一の目的とした保険制度です。
労災保険から保険給付を受けるためには、業務上の事由によることが条件となります。怪我や病気が業務上の事由として認められた場合は、治療代等だけでなく、仕事を休んだために減額された給与も一定額保障されます。休業した分の補償を労災保険法では、「休業(補償)給付」とよびます。
一方、労働基準法では、会社の都合で労働者を休業させた場合に、会社のその賃金を補償をしなければならないと定めています。この補償のことを「休業手当」とよびます。
今回は、休業(補償)給付と休業手当の違いについてみていきたいと思います。
休業(補償)給付とは
労働災害や通勤災害によって怪我や病気になってしまい、治療のため仕事を休まざるを得ない労働者に対して、休業補償給付(業務災害)または休業給付(通勤災害)が支給されます。
支給される額は、給付基礎日額の100分の60に相当する額です。
給付基礎日額は、負傷や死亡の原因である事故が発生した日、もしくは診断によって疾病の発生が確定した日の直近3か月間に、その労働者に対し支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額になります。計算方法については、後で解説する休業手当と同様です。
休業(補償)給付には、3日間の待機期間が設けられています。この3日間については、労災保険ではカバーすることができないので、会社が労働基準法上の休業補償(平均賃金の100分の60以上)をする必要があります。
後で解説する休業手当と異なるのは、この待機期間の3日間に土日など会社の休日があっても補償する必要があること、休業補償に関しては非課税かつ労働保険料の対象外になることです。休業補償をする場合は、注意してください。もちろん、平均賃金の100分の60以上を支払えばよいので、通常通り100分の100を支払うことも可能です。
一方、通勤災害が原因の場合は、待機期間の3日間については労働基準法上の休業補償を行う義務はありません。業務災害の場合と混同している方はときどき見受けられますので、違いを理解しておいてください。
4日目以降については、業務災害であっても通勤災害であっても労災保険より給付されます。したがって、会社はその間は欠勤扱いとして賃金計算をすることが多いようです。
休業手当とは
労働基準法第26条では、会社の都合で労働者を休業させた場合の補償について、以下の通り定めています。
【使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない】
このルールは、労働者であればどのような契約形態の方でも適用されます。「正社員は適用されるがパートアルバイトは適用されない」といったことはありません。
休業手当は、労働基準法上の賃金に該当します。そのため、雇用保険料、社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)、所得税などの控除の対象となります。この点は、先ほどの休業補償と異なりますので、給与計算を行う際にはかならず漏れのないように徴収しましょう。
休業手当の計算方法
それでは、休業手当の計算方法についてみていきたいと思います。
休業手当の金額は、原則として
「過去3ヶ月間の賃金総額(通勤費や残業代を含みます)÷その間の総暦日数×60%」
で計算します。
賃金の締切日がある場合は、直前の締切日から過去3ヶ月で計算します。月給の場合と、時給や日給の場合は計算方法が違います。時給や日給の場合は、所定労働日数により計算した金額と、上記の原則の計算式のいずれか高い金額になります。
いずれにせよ、基本給の60%を支給すれば良いわけではありませんので、ご注意ください。
それでは、2月20日から3月15日まで休業し、その間の所定労働日数が16日だった場合の計算例を見てみましょう。(末日締め切りの翌月25日支給)
月給の場合
11月分(12/25支給)の給与 | 240,000円 | (暦日数30日) |
12月分( 1/25支給)の給与額 | 250,000円 | (暦日数31日) |
1月分( 2/25支給)の給与額 | 260,000円 | (暦日数31日) |
3ヶ月合計 | 750,000円 | (暦日数92日) |
1)平均賃金の計算方法
3ヶ月合計給与額(750,000円)÷3ヶ月暦日合計(92日)=8,152.17円(小数点第3位以下切捨)
2)休業手当の計算方法
平均賃金(8,152.17円)×60%×休業日数(16日)=78,261円(円未満四捨五入)
*給与額は、残業代や通勤費を含めた総支給額になります。
*休業補償と異なり、休業手当の場合は休業日数に公休日は含みません。
*休業が継続している場合は、3月分を再計算するのではなく、休業初日が含まれている2月分と同じ平均賃金を使用します。
時給や日給の場合
日給や時給の場合の計算方法は、平均賃金の算出方法が月給の場合と少し異なります。
11月分の給与額 | 70,000円 | (暦日数30日 労働日数 9日) |
12月分の給与額 | 50,000円 | (暦日数31日 労働日数 7日) |
1月分の給与額 | 80,000円 | (暦日数31日 労働日数10日) |
3ヶ月合計 | 200,000円 | (暦日数92日 労働日数26日) |
1)平均賃金の計算方法
【A】まずは、月給者と同様の方法で平均賃金の計算を行います。
3ヶ月合計給与額(200,000円)÷3ヶ月暦日合計(92日)=2173.91円(小数点第3位以下切捨)
【B】次に、実際の労働日数を分母にして計算を行います。
3ヶ月合計給与額(200,000円)÷3ヶ月労働日数合計(26日)×60%=4615.38円(小数点第3位以下切捨)
上の【A】と【B】を比較し、高い方である【B】が平均賃金になります。
2)休業手当の計算方法(2月20日から3月15日までに出勤予定が6日だった場合)
平均賃金(4615.38円)×60%×休業日数(6日)=16,615円(円未満四捨五入)
特殊なケースの場合
1)平均賃金は、過去3ヶ月分の給与金額の平均をとって計算を行います。
入社して3ヶ月が経過していない場合でも、直前の賃金締切日から起算して平均賃金の計算を行います。
(上の例で12月5日入社であれば、12月分と1月分の2ヶ月弱の給与と日数で計算します。)
2)入社して数日しか経過していない場合は、直前の賃金締切日がありません。
この場合は、入社日から休業前日までの期間で平均賃金を計算します。
休業特別支給金について
労災保険の休業補償給付及び休業給付を受給している方には、社会復帰促進事業の一環として待機期間終了後の第4日目から休業特別支給金が支給されることになります。支給される金額は、1日につき給付基礎日額の100分の20に相当する金額になります。したがって、休業(補償)給付とあわせて給与の約80%が補償されることになります。
労災保険に関連する手続きや給与計算業務は、手続きをした経験が少なく手探りの状態で行うことが多いため、間違いが発生しやすい項目です。間違えたことによって、被災した従業員の方に不利益が発生しないように、事前にベーシックな部分については知識を得ておくようにしましょう。
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