定年延長と退職金
目次
人手不足への対応や、若手への技術の継承等を目的として、定年年齢の引き上げを行う会社が増えてきました。その際に、退職金の支払い時期について注意すべき点があります。
定年延長を実施する際、旧定年以降、給与額を下げる制度設計とするケースがあります。引き上げ後の定年退職時に退職金を支払うのであれば、支払時期が先延ばしになるだけでなので、特に注意すべき点がありません。しかし、給与額が下がったり、各自の生活設計などのため、引き上げ前の定年で退職金を受け取りたいという方がいた場合、一定の要件に該当しないと、退職金として処理することができなくなってしまいます。
今回は、退職金の所得税の計算方法を説明したいと思います。
高年齢者雇用確保措置について
現在は、65歳までの雇用確保措置(高年齢者雇用安定法第9条)によって、定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じる義務があります。
1)65歳までの定年引き上げ
2)定年制の廃止
3)65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入
3)の65歳までの継続雇用制度を導入している場合は、原則として希望者全員が対象となります。例外として、2013年4月1日までに労使協定により対象者の基準を定めていた場合は、基準に応じて対象者を限定することができます。労使協定により基準を定めている場合は、2025年3月31日までに、基準を適用できる年齢を段階的に引き上げていくことになっています。
また、継続雇用することができる事業主は、自社か特殊関係事業主に限定されています。特殊関係事業主とは、自社と次のいずれかの関係にある法人等を指します。
・子法人等
・親法人等
・親法人等の子法人等
・関連法人等
・親法人等の関連法人等
退職所得とは
退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職金などの所得をいいます。退職に基因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社又は信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされます。
また、労働基準法第20条の規定により支払われる解雇予告手当や、賃金の支払の確保等に関する法律第7条の規定により退職した労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します。
退職金に課税される所得税の計算方法
退職金に課税される所得税の計算方法は、「退職所得の受給に関する申告書」が提出されているか否かで計算方法が変わってきます。
1)申告書が提出されている場合
勤続年数によって、退職所得控除の金額が変わってきます。さらに、勤続年数が20年以下か、20年超で計算方法が異なります。
勤続年数は、原則として、退職手当等の支払者の下で退職の日まで引き続き勤務した期間の年数です。勤続期間に1年に満たない端数があるときは、1年に切り上げる点は押さえておいてください。
次に、勤続年数に応じて、退職所得控除額を計算します。
退職所得控除額の計算の表
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×A |
20年超 | 800万円+70万円×(A-20年) |
退職金の支給額から上記表で計算した退職所得控除額を控除した残額を2分の1にした額(1,000円未満の端数は切り捨てます。)が、課税退職所得金額となります。
最後に、以下の表にその金額を当てはめて所得税(復興特別所得税を含む)の金額を確定させます。
退職所得の源泉徴収税額の速算表
課税退職所得金額(A) | ー所得税率(B) | 控除額(C) | 税額=((A)×(B)-(C))×102.1% |
195万円以下 | 5% | 0円 | ((A)×5%)×102.1% |
195万円を超え330万円以下 | 10% | 97,500円 | ((A)×10%-97,500円)×102.1% |
330万円を超え695万円以下 | 20% | 427,500円 | ((A)×20%-427,500円)×102.1% |
695万円を超え900万円以下 | 23% | 636,000円 | ((A)×23%-636,000円)×102.1% |
900万円を超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | ((A)×33%-1,536,000円)×102.1% |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | ((A)×40%-2,796,000円)×102.1% |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | ((A)×45%-4,796,000円)×102.1% |
課税退職所得金額(A) ーー所得税率(B)ーー 控除額(C) ーー税額=((A)×(B)-(C))×102.1%
具体的に金額を挙げて、計算してみましょう。
例えば、退職金の支給額が800万円、勤続年数が10年2か月の人の場合で考えると、
1.勤続年数は、11年になります。(1年未満の端数は1年に切上げ)。
2.退職所得控除額 40万円×11年=440万円
3.課税退職所得金額 (800万円-440万円)×1/2=180万円
4.税額 180万円×5%×1.021=91,890円
したがって、このケースの源泉徴収税額は、91,890円になります。
2)申告書が提出されていない場合
提出されていない場合には、退職手当等の支給額に20.42%の税率を乗じて計算した所得税及び復興特別所得税の額を源泉徴収します。
この場合、退職手当等の受給者本人が確定申告をして、1)と同様の計算を行い精算することになります。
1)と同じケースで、退職所得の受給に関する申告書が提出されていない場合の源泉徴収税額を計算してみましょう。
800万円×20.42%=1,633,600円
申告書が提出されていない場合の源泉徴収税額は 1,633,600円になります。
支給額が同じでも、源泉徴収する税額は、だいぶ違いが出ることが分かります。
引上げ前の定年に達したときに支払う退職金について
上記の計算方法を見てもわかるように、退職金の所得税は、給与所得などに比べ、退職金を受け取る側にとって有利になっています。しかし、在職中に受け取る退職金は、正社員から再雇用で嘱託社員になるなどの場合を除き、一時所得として取り扱われ、この税務上の優遇措置が受けられません。
ただし、定年年齢を延長した場合で、以下の4つの要件に該当する場合は、退職金を旧定年時に支払った場合でも退職所得として取り扱われることになります。
1)労働協約や退職金規程等を改正して定年を延長している。
2)旧定年までの勤続年数を基礎として退職金の計算をしている。
3)その支払をすることにつき相当の理由があると認められる。
4)退職金を支給した後、退職を理由とした一時金を支給することはない。
3)についての具体的な内容ですが、旧定年を迎えたときに退職一時金が支給されることを前提に生活設計(住宅ローンや教育ローンの返済等)をしてきた事情等が考えられます。
今回は、退職金の所得税の計算方法を説明しました。退職金の支払いは高額になることが多いので、所得税の計算を行う際は注意が必要です。
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