社会保険の定時決定~その1
目次
年に一度、毎年4月、5月、6月に支払った給与で、社会保険料の見直しを行います。これを定時決定といいます。今回は、定時決定について解説をしていきたいと思います。
定時決定は、1年に1回しか行わないため、知識が曖昧なまま手続きや給与計算を行ってしまうケースが見受けられます。
社会保険料の金額を間違っていることが後で判明すると、会社に対する不信感にもつながってしまいますので、慎重に行っていく必要があります。
社会保険料の変更について
社会保険料の変更方法は、定時決定と随時改定の2種類があります。定時決定は、4月から6月に支払った給与等をもとに保険料を決定します。定時決定により決定された標準報酬月額は、原則として9月からの1年間使用されることになります。
ただし、給与改定や手当の増減が行われて給与額に大幅な変更があったときは、実態とかけ離れた保険料になってしまいます。そこで、給与額と標準報酬月額が乖離しないように随時改定を行い、標準報酬月額の改定を行います。
標準報酬月額について
健康保険・厚生年金保険では、被保険者が会社から受け取る毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分した「標準報酬月額」に照らし合わせて、保険料の額と保険給付の額を計算します。
健康保険制度の標準報酬月額は、第1級の5万8千円から第50級の139万円までの50等級に区分されています。全国健康保険協会に加入をしている会社については、都道府県ごとに保険料率は異なりますが、標準報酬月額の区分については全国共通です。これは、健康保険組合の場合でも同様です。
一方で、厚生年金保険制度の標準報酬月額は、第1級の8万8千円から第32級の65万円までの32等級に区分されています。
大幅な給与の変動の有無は、標準報酬月額が原則として2等級以上変動したかを基準にして判定します。給与から控除する保険料の額は標準報酬月額の等級によって決められているので、正確に把握する必要があります。
報酬について
定時決定や随時改定を行う際は、支払った給与金額をもとに計算を行います。社会保険では、支払った給与のことを「報酬」と呼びます。標準報酬月額の対象となる報酬は、次のいずれかを満たすものとなります。
1)被保険者が自己の労働の対償として受けるものであること。
2)事業所から経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計にあてられるもの。
これだけでは判断しにくいと思いますので、具体例をあげていきたいと思います。
報酬の対象となるもの
基本給、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金など。
なお、年4回以上支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれるという点には注意が必要です。
巷で「4月、5月、6月に残業はなるべくしない方が良い」と言われているのは、この間に通常より多く残業代を受け取っていると基本給や手当の合計額よりも高い標準報酬月額が設定される可能性があるためです。この点については、一定の要件に該当すれば別の方法で計算をすることができます。この例外措置については、次回解説をしていきたいと思います。
定時決定について
社会保険に加入している被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、事業主は、7月1日現在で使用している全被保険者の3ヶ月間(4月~6月)の報酬月額を算定基礎届に記載をして届出を行います。ここでいう各月は、賃金の計算期間ではなく、支払日を指しています。
この届出内容に基づき厚生労働大臣は毎年1回、標準報酬月額を決定し直します。この一連の手続きを定時決定といいます。
実務的には、算定基礎届を提出するので「算定」と呼ばれています。新しく決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの各月に適用されます。
実際の給与計算業務では、9月(保険料を当月徴収している会社)あるいは10月(保険料を翌月徴収している会社)の支給日の給与から保険料が変更になります。定時決定のタイミングで保険料の徴収額を誤ってしまうと、1年間間違えたままといったケースも考えられるので注意が必要です。
算定基礎届には、4月、5月、6月に受けた報酬の総額をその期間の総月数で除して得た額を報酬月額として標準報酬月額を決定します。原則として、支払基礎日数が17日以上ある月が対象となります。
社会保険に加入しているすべての方が定時決定の対象となるわけではありません。原則は、7月1日現在のすべての被保険者および70歳以上被用者となりますが、以下のいずれかに該当する方は、算定基礎届の提出が不要となります。
1)6月1日以降に資格取得した場合
2)6月30日以前に退職した場合
3)7月改定の月額変更届を提出する場合
4)8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った場合
なお、4)の8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行っていたにもかかわらず、実際には8月または9月の随時改定の対象にならなかった場合には、あらためて該当者の算定基礎届の提出が必要になります。
反対に、算定基礎届を提出していた被保険者が、8月または9月の随時改定の対象になって月額変更届を提出した場合は、すでに提出されていた算定基礎届が無効になります。
8月または9月の随時改定になることが確定できない場合には、算定基礎届を提出しておいた方が良いでしょう。
今回は、定時決定の基本について説明しました。次回はさらに詳しく定時決定について説明したいと思います。
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                                                    第125回所定外労働と法定時間外労働の違い
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                                                    第124回定額減税と所得税の納付
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                                                    第122回令和6年分所得税の定額減税月次減税事務
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                                                    第121回令和6年分所得税の定額減税の概要
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                                                    第120回社会保険、雇用保険の料率と社会保険適用拡大
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                                                    第119回企画業務型裁量労働制の法改正
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                                                    第118回専門業務型裁量労働制の法改正
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                                                    第117回雇用保険の加入要件
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                                                    第116回年収の壁・支援強化パッケージ
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                                                    第115回社会保険の扶養家族の年収の壁
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                                                    第102回2022年10月からの給与計算の注意点
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                                                    第113回平均賃金の計算方法
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                                                    第112回有給休暇の買上げ
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                                                    第111回運賃改定と社会保険
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                                                    第110回現物給与の価額変更
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                                                    第109回賃金のデジタル通貨払い
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                                                    第108回令和5年度の雇用保険料率
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                                                    第107回賃金請求権の消滅時効の延長
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                                                    第106回月60時間超の残業の割増率と代替休暇
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                                                    第105回令和5年からの源泉徴収事務の変更点
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                                                    第104回育児休業の社会保険料免除
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                                                    第103回デジタル通貨での給与の支払い
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                                                    第101回振替休日と代休の違い
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                                                    第100回産後パパ休暇と給与計算
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                                                    第99回社会保険の定時決定~その2
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                                                    第98回社会保険の定時決定~その1
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                                                    第97回雇用保険の料率変更
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                                                    第96回定年延長と退職金
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                                                    第95回夜勤シフトの割増賃金
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                                                    第94回休業補償と休業手当
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                                                    第93回社会保険の適用拡大について
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                                                    第92回令和3年の年末調整
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                                                    第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
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                                                    第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
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                                                    第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
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                                                    第88回感染対策費用の課税・非課税
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                                                    第87回兼業、副業の時間外手当
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                                                    第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
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                                                    第85回有給休暇と残業手当
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                                                    第84回在宅勤務手当の非課税計算
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                                                    第83回延長された社会保険の特例改定
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                                                    第82回育児・介護休業法の改正
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                                                    第81回年末調整のイレギュラー対応
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                                                    第80回年末調整の変更点~その2
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                                                    第79回年末調整の変更点~その1
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                                                    第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
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                                                    第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
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                                                    第76回寡婦控除の見直し
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                                                    第75回住民税の特別徴収
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                                                    第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
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                                                    第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
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                                                    第72回休業手当の計算方法
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                                                    第71回源泉所得税の仕組み
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                                                    第70回時間単位の有給休暇付与
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                                                    第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
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                                                    第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
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                                                    第67回フレックスタイム制の改正と残業代
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                                                    第66回健康保険の加入資格と保険料
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                                                    第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
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                                                    第64回介護保険料を徴収するタイミング
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                                                    第114回令和5年度の最低賃金
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                                                    第63回社会保険における賃金とは
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                                                    第62回労働保険における賃金とは
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                                                    第61回労働基準法における賃金とは
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                                                    第60回出来高払い制の残業代
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                                                    第59回休業手当の計算方法
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                                                    第58回賞与における所得税の計算
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                                                    第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
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                                                    第56回年末調整の変更点
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                                                    第55回社宅制度と労働保険料
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                                                    第54回社宅制度と社会保険料
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                                                    第53回住宅手当と社宅貸与の違い
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                                                    第52回退職金の税務計算
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                                                    第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
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                                                    第50回賃金支払いの5原則~その3
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                                                    第49回賃金支払いの5原則~その2
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                                                    第48回賃金支払いの5原則~その1
- 
                                                
                                                    第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
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                                                    第46回割増賃金の基礎となる賃金
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                                                    第45回年末調整の留意点~その2
- 
                                                
                                                    第44回年末調整の留意点~その1
- 
                                                
                                                    第43回退職者の住民税
- 
                                                
                                                    第42回労働時間の端数処理
- 
                                                
                                                    第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
- 
                                                
                                                    第40回賃金から控除できる項目と労使協定
- 
                                                
                                                    第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
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                                                    第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
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                                                    第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
- 
                                                
                                                    第36回最低賃金の仕組み
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                                                    第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
- 
                                                
                                                    第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
- 
                                                
                                                    第33回今年の年末調整の留意点
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                                                    第32回年末調整における海外居住の扶養家族
- 
                                                
                                                    第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
- 
                                                
                                                    第30回従業員が死亡したとき
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                                                    第29回雇用保険料と介護保険料の免除
- 
                                                
                                                    第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
- 
                                                
                                                    第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
- 
                                                
                                                    第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
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                                                    第25回1週間単位の変形労時間制度
- 
                                                
                                                    第24回フレックスタイム制の労働時間制度
- 
                                                
                                                    第23回1年単位の変形労時間制度
- 
                                                
                                                    第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
- 
                                                
                                                    第21回管理職への残業代の支払い
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                                                    第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
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                                                    第19回社会保険料の仕組みと変更時期
- 
                                                
                                                    第18回通勤費の決め方と非課税限度額
- 
                                                
                                                    第17回報奨金の現金支給や現物給与
- 
                                                
                                                    第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
- 
                                                
                                                    第15回有給休暇の付与と消滅
- 
                                                
                                                    第14回給与の支給日の決め方やその変更
- 
                                                
                                                    第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
- 
                                                
                                                    第12回標準報酬月額の随時改定
- 
                                                
                                                    第11回年間の給与計算の流れ
- 
                                                
                                                    第10回年末調整の後の諸手続き
- 
                                                
                                                    第09回離婚時の年金の分割制度
- 
                                                
                                                    第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
- 
                                                
                                                    第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
- 
                                                
                                                    第06回就業規則と給与計算の関係
- 
                                                
                                                    第05回給与から引かれるものは?
- 
                                                
                                                    第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
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                                                    第03回賞与の支給と給与計算
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                                                    第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
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                                                    第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料

 
                 
                 
          
        






 
             
                                 
        