残業代を正しく計算するための基礎知識
目次
給与計算を行う上で、一番ミスが起きやすいケースとして残業代の支払いや欠勤や遅刻の控除等があげられます。
計算ミスがおきる原因は、担当者が間違った労働基準法の知識を持っていて計算方法に誤りがあったり、給与ソフトを使用せずに担当者が手計算で給与計算を行っているために計算ミスをしてしまう等が考えられます。給与は、従業員にとって一番大切なものです。何度もミスをしてしまうと会社への不信感につながりかねません。今回は、残業代の法律知識について見ていきます。
残業代を計算するための基礎計算について
残業代を計算するためには、まず1時間あたりの賃金額を計算しなければなりません。時給制であれば時給額そのものですが、多くの人が該当する月給制の場合には1時間あたりの賃金額に換算して残業代の計算を行う必要があります。
計算式は次の通りです。
1時間あたりの賃金額 = 月給 ÷ 1年間における1か月平均所定労働時間数
この「月給」は原則として基本給と役職手当などの各種手当の合算額となります。ただし、労働基準法で次の手当については合算額に算入しなくてもよいとされています。これらは制限的に列挙されているものなので、ここに該当しない手当はすべて算入しなくてはなりません。
- 家族手当・・・家族数に応じて算定されるものに限る
- 通勤手当・・・交通費や距離に応じて算定されるものに限る
- 住宅手当・・・住宅の費用に応じて算定されるものに限る
- 別居手当
- 子女教育手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらの手当は労働と直接的な関係が薄く、個人的な事情に基づいて支給されている賃金であることから、残業代を計算するための1時間あたりの賃金額からは除外されています。なお、家族手当・通勤手当・住宅手当であっても、上に記載しているような各個人の状況に応じて支給されていない場合は、月給に含めて計算をする必要があります。
次に「1か月の平均所定労働時間数」ですが、次の計算式で求めることができます。
『年間の所定労働日数が決まっている場合』
年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間数 ÷ 12か月
『年間の所定労働日数が決まっていない場合』
(365日-所定休日日数) × 1日の所定労働時間数 ÷ 12か月
割増賃金率について
労働基準法では、労働させることが可能な時間数を、1日8時間、1週40時間と決めています。この労働時間を超えた場合には事業主は割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金 = 1時間あたりの賃金額 × 割増賃金率
割増賃金率については以下のように定められています。
- 時間外労働・・・2割5分以上(1か月について60時間を超える場合は5割以上)
- 休日労働・・・・3割5分以上
- 深夜労働・・・・2割5分以上
- 時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上(1か月について60時間を超える場合は7割5分以上)
- 休日労働が深夜に及んだ場合・・・(6割以上)
ここでいう「①時間外労働」「②休日労働」はいずれも法定の時間外労働と休日労働を指します。そのため、1日7時間労働の会社で1時間残業をした場合には、1日8時間以内に収まっているので法定時間外労働にはならず、法律上は割増をしないでも良いことになります。
割増賃金率の具体的な例をあげると、午前9時から午後6時までが所定労働時間(休憩を除くと8時間労働)の会社で、午後11時まで働いた場合には、午後6時~午後11時までの5時間が「①時間外労働手当」の対象になり、午後10時~午後11時までの1時間が「③深夜労働手当」の対象になります。
会社によっては、午後6時~午後10時までの4時間を「①時間外労働手当」、午後10時~午後11時までの1時間が「④時間外深夜労働手当」の対象にする場合もあります。
会社によって計算方法が異なりますので注意しましょう。
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率について
時間外労働の割増賃金率については、平成22年4月労働基準法改正により、1か月の時間外労働が60時間を超えた場合は割増賃金率を5割以上とすることになりました。この改正は、当分の間中小企業への適用が猶予されているため、中小企業の場合は、上の「①時間外労働」の( )内と「④時間外深夜労働」の( )内は無視してかまいません。
中小企業の定義は以下のAかBのどちらかひとつでも該当している場合です。
A 資本金の額または出資の総額が
小売業 5000万円以下
サービス業 5000万円以下
卸売業 1億円以下
上記以外 3億円以下
または
B 常時使用する労働者が
小売業 50人以下
サービス業 100人以下
卸売業 100人以下
上記以外 300人以下
平成22年4月の法改正時に中小企業の割増率については施行から3年経過後に改めて検討するとされていました。しかし、3年後の平成25年4月には、この猶予措置の見直しは行なわれませんでした。
今年になってから、2月25日の労働政策審議会労働条件分科会で、労働者側、使用者側、公益側から見直しに向けての意見が出されました。今年の秋にはどのような方向性になるかが発表されるはずです。
猶予措置については給与計算の実務上影響が多いので、経営者や実務担当者は動向を注視していく必要があります。
いかがでしたでしょうか?残業代の計算には、このほかにも、36協定の特別条項を使用したときに割増率が異なっていたり、所定休日でも法定休日でもどちらも休日出勤とみなす会社など、それぞれ独自のルールが存在します。
会社のルールの改定に合わせて給与計算の方法をミスなく変更していくのは、非常に大変です。人事給与アウトソーシング(ペイロールアウトソーシング)S-PAYCIALの導入や社会保険労務士などの専門家へのアウトソーシングの活用を検討してみてはいかがでしょうか。戦略的な人事やタレントマネジメントなどの高度な人材育成が求められるなか、給与計算はアウトソーシングを行い、コストの削減と戦略的人事部門の強化を行うのも必要な時代になってきているように思えます。
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