令和5年度の最低賃金
目次
すでに報道等でご存知だと思いますが、厚生労働省は、地方最低賃金審議会が答申した令和5年度の地域別最低賃金の改定額のとりまとめを行いました。答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続きを経た上で、都道府県労働局長の決定により、10月1日から都道府県別に順次発効される予定です。
今回は、令和5年度の最低賃金についてみていきます。
令和5年度の地方最低賃金審議会の答申のポイント
令和5年度の地方最低賃金審議会答申のポイントは、以下の4つになります。
1)47都道府県すべてで、39円~47円の引上げ (引上げ額が47円は2県、46円は2県、45円は4県、44円は5県、43円は2県、42円は4県、41円は10都府県、40円は17道府県、39円は1県) 2)改定後の全国加重平均額は1,004円(昨年度961円)となり、1,000円を上回る 3)全国加重平均額43円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額 4)最高額(1,113円)に対する最低額(893円)の比率は、80.2%(昨年度は79.6%)で、この比率は9年連続の改善 |
今回は、中央最低賃金審議会が答申した引き上げの目安額を5円以上上回る県が続出したことに大きな特徴があります。
実際の各都道府県の最低賃金については、厚生労働省が公表していますので、ホームページで確認をしてください。
最低賃金の対象となる賃金
最低賃金の対象となる賃金は、実際に毎月支払われる賃金から次の6種類の賃金を除いた金額が対象となります。
1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など) 2)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) 3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など) 4)所定労働日以外の日に対して支払われる賃金(休日割増賃金など) 5)午後10時から午前5時までの間に対して支払われる割増賃金(深夜割増賃金など) 6)精・皆勤手当、通勤手当、家族手当等 |
このコラムを読んでいただいている方の中には、固定残業手当(制度)を導入している会社もあろうかと思います。
固定残業制度を導入している場合、給与は基本給部分と固定残業部分に分かれています。固定残業部分は、定額であっても3)の「所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金」に該当するため、最低賃金の対象となるのは「給与から固定残業部分を控除した金額」です。
固定残業部分を基本給に含めている場合は、同じ金額であれば含み残業時間が多ければ多いほど、時給単価は下がるということになります。
2016年から最低賃金は毎年約3%ずつ引き上げられています。2015年よりも前に固定残業制度を導入している企業は、知らず知らずのうちに基本給部分が最低賃金を下回っている可能性があります。固定残業制度を導入している会社は、最低賃金をクリアしているか、一度チェックをした方が良いでしょう。
なお、固定残業部分に含まれる時間数を変更しないと仮定すると、基本給部分を引き上げるということは、固定残業部分も増額する必要がありますのでご注意ください。
支払っている賃金が最低賃金を上回っているかどうかチェックする方法
最低賃金は時間によって定められています。また、最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金から一部の賃金を控除したものが対象となることは先ほど説明したとおりです。
具体的に、支払われる賃金が最低賃金以上となっているかどうかをチェックするには、最低賃金の対象となる賃金額と定められている最低賃金を比較することになります。支払っている賃金の形態(月給、時間給、日給等)でチェック方法が異なります。
1)時間給制:時間給 ≧ 最低賃金額 2)日給制 :日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額 3)月給制 :月給÷1ヶ月の所定労働時間 ≧ 最低賃金額 4)出来高払い制その他の請負制によって定められた賃金: 出来高払い制その他の請負制によって計算された賃金の総額÷当該賃金計算期間に出来高払い制その他の請負制によって労働した総労働時間 ≧ 最低賃金額 |
最低賃金が上昇することによる影響
東京都の最低賃金は、2023年10月1日から1,113円になると答申されています。現在の最低賃金は、1,072円なので、引き上げ額は41円となります。
最低賃金が上昇することによって、自社内の低賃金層だけでなく、少し上の中間層にも影響が出てきます。
たとえば、新卒の初任給を最低賃金で設定している会社の場合をみていきます。所定労働時間は173時間とします。2023年4月入社に入社した新卒の給与は、1,072円×173時間=185,456円となります。
一方で、2024年4月に入社する新卒の給与は、1,113円×173時間=192,549円となります。差額は、7,093円/月となります。
2年目になった2023年の新卒の給与を月額5,000円昇給したとしても、2024年の新卒の給与の方が高くなってしまいます。これだと、2023年新卒のモチベーションは下がってしまいますので、昇給額を増額する必要があります。
最低賃金の引き上げにあわせて新卒初任給を設定していると、2015年以前に入社した従業員と新卒で入社した従業員の賃金差がほとんどないという現象が起きかねません。最低賃金をクリアしているかどうかのチェックはもちろん重要なことですが、社内の給与バランスも整えていく必要があります。
今回は、最低賃金についてみてきました。
令和5年度の最低賃金の引き上げによって、全国加重平均額は1,004円となりました。「事前に予測していた最低賃金よりも高い。」と感じる方もいるかもしれません。給与額が最低賃金を下回っていたということにならないように、時給単価のチェックを2023年9月中に行う必要があります。
また、社内の給与バランスが納得できるものでないと従業員のモチベーションは下がってしまいます。最低賃金のチェックとともに、給与バランスのチェックも行った方がよいでしょう。
鈴与シンワート株式会社が提供する人事・給与・勤怠業務と財務・会計業務ソリューションはこちらからご覧ください。
-
第113回令和5年度の最低賃金
-
第112回平均賃金の計算方法
-
第111回運賃改定と社会保険
-
第110回現物給与の価額変更
-
第109回賃金のデジタル通貨払い
-
第108回令和5年度の雇用保険の料率
-
第107回賃金請求権の消滅時効の延長
-
第106回月60時間超の残業の割増率と代替休暇
-
第105回令和5年からの源泉徴収事務の変更点
-
第104回育児休業の社会保険料免除
-
第103回デジタル通貨での給与の支払い
-
第102回2022年10月からの給与計算の注意点
-
第101回振替休日と代休の違い
-
第100回産後パパ休暇と給与計算
-
第99回社会保険の定時決定~その2
-
第98回社会保険の定時決定~その1
-
第97回雇用保険の料率変更
-
第96回定年延長と退職金
-
第95回夜勤シフトの割増賃金
-
第94回休業補償と休業手当
-
第93回社会保険の適用拡大について
-
第92回令和3年の年末調整
-
第91回兼業している65歳以上の方の雇用保険
-
第90回個人型確定拠出年金(iDeCo)
-
第89回社宅家賃や社員旅行の積立金
-
第88回感染対策費用の課税・非課税
-
第87回兼業、副業の時間外手当
-
第86回2以上事業所勤務者の社会保険料
-
第85回有給休暇と残業手当
-
第84回在宅勤務手当の非課税計算
-
第83回延長された社会保険の特例改定
-
第82回育児・介護休業法の改正
-
第81回年末調整のイレギュラー対応
-
第80回年末調整の変更点~その2
-
第79回年末調整の変更点~その1
-
第78回厚生年金保険保険料の上限引き上げ
-
第77回新型コロナウイルスによる社会保険標準報酬月額の特例改定
-
第76回寡婦控除の見直し
-
第75回住民税の特別徴収
-
第74回在宅勤務時の労働時間と割増賃金
-
第73回高年齢労働者の雇用保険料免除の廃止
-
第72回休業手当の計算方法
-
第71回源泉所得税の仕組み
-
第70回時間単位の有給休暇付与
-
第69回短時間労働者の社会保険の適用拡大
-
第68回60時間超の残業の割増率の猶予措置廃止
-
第67回フレックスタイム制の改正と残業代
-
第66回健康保険の加入資格と保険料
-
第65回厚生年金保険の加入資格と保険料
-
第64回介護保険料を徴収するタイミング
-
第63回社会保険における賃金とは
-
第62回労働保険における賃金とは
-
第61回労働基準法における賃金とは
-
第60回出来高払い制の残業代
-
第59回休業手当の計算方法
-
第58回賞与における所得税の計算
-
第57回年末調整(住宅ローン控除)の実務
-
第56回年末調整の変更点
-
第55回社宅制度と労働保険料
-
第54回社宅制度と社会保険料
-
第53回住宅手当と社宅貸与の違い
-
第52回退職金の税務計算
-
第51回賃金支払いの5原則~その4(最終回)
-
第50回賃金支払いの5原則~その3
-
第49回賃金支払いの5原則~その2
-
第48回賃金支払いの5原則~その1
-
第47回時給者の有給休暇の賃金の計算方法
-
第46回割増賃金の基礎となる賃金
-
第45回年末調整の留意点~その2
-
第44回年末調整の留意点~その1
-
第43回退職者の住民税
-
第42回労働時間の端数処理
-
第41回入社した従業員がすぐに退職したとき
-
第40回賃金から控除できる項目と労使協定
-
第39回1か月60時間超の残業の割増率と代替休暇
-
第38回退職者の社会保険料徴収とタイミング
-
第37回雇用保険料率の改定と変更のタイミング
-
第36回最低賃金の仕組み
-
第35回毎月の給与からの源泉所得税の徴収
-
第34回65歳以上の従業員に対する雇用保険の法改正
-
第33回今年の年末調整の留意点
-
第32回年末調整における海外居住の扶養家族
-
第31回年末調整におけるマイナンバーの取扱
-
第30回従業員が死亡したとき
-
第29回雇用保険料と介護保険料の免除
-
第28回企画業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第27回事業場外労働に関するみなし労働時間制度の考え方
-
第26回専門業務型裁量労働制と割増賃金の考え方
-
第25回1週間単位の変形労時間制度
-
第24回フレックスタイム制の労働時間制度
-
第23回1年単位の変形労時間制度
-
第22回1か月単位の変形労時間制と残業代の関係
-
第21回管理職への残業代の支払い
-
第20回今年の年末調整で昨年から変更になった点
-
第19回社会保険料の仕組みと変更時期
-
第18回通勤費の決め方と非課税限度額
-
第17回報奨金の現金支給や現物給与
-
第16回徹夜勤務や遅刻をした日の残業代の支払い
-
第15回有給休暇の付与と消滅
-
第14回給与の支給日の決め方やその変更
-
第13回給与計算の誤入力を修正するときの注意点
-
第12回標準報酬月額の随時改定
-
第11回年間の給与計算の流れ
-
第10回年末調整の後の諸手続き
-
第09回離婚時の年金の分割制度
-
第08回年末調整その1~年末調整の意味と対象者~
-
第07回遅刻をした日に残業をしたときの計算方法
-
第06回就業規則と給与計算の関係
-
第05回給与から引かれるものは?
-
第04回残業代を正しく計算するための基礎知識
-
第03回賞与の支給と給与計算
-
第02回産前産後休業や育児休業の仕組みと社会保険料
-
第01回消費税増税で変わる通勤手当と社会保険料