日本の人事部掲載コラム バックナンバー
第67回  投稿:2023.11.15 / 最終更新:2023.11.10

フレックスタイム制の改正と残業代

平成31年4月から働き方改革の一環で、「フレックスタイム制」の法改正が行われました。それに伴い、割増賃金の計算方法でも新しい考え方が導入されました。今回は、フレックスタイム制における残業代の計算方法について説明したいと思います。

 

フレックスタイム制の概要

フレックスタイム制とは、一定期間(清算期間)における総労働時間をあらかじめ定めておき、労働者はその枠内で始業時間や終業時間を自分自身で決定をしながら働くことができる制度です。

フレックスタイム制では、1日単位で残業時間の計算を行うことはありません。あくまでも清算期間のトータルの労働時間で、時間外手当の支払いをするか否かを判断することになります。

今回の法改正では、清算期間として設定できる期間が「1ヶ月以内」から「3ヶ月以内」に延長されました。その影響で、清算期間を1ヶ月超に設定した場合の時間外手当の計算方法が新しく導入されました。

 

残業時間の計算方法

それでは、清算期間が1ヶ月を超える場合の時間外労働の計算方法の手順について、確認していきましょう。

今回は、清算期間を4月1日~6月30日までの3ヶ月間、各月の労働時間は、4月:220時間 5月:180時間 6月:140時間だったと仮定して説明していきます。

1) 法定労働時間の総枠の確認

4月1日から6月30日までを清算期間とすると、この間の総暦日数は91日になります。そのため、法定労働時間の総枠は520時間となります。

<1ヶ月単位>
暦日数:31日 法定労働時間:法定労働時間
暦日数:30日 法定労働時間:171.4時間
暦日数:29日 法定労働時間:165.7時間
暦日数:28日 法定労働時間:160.0時間

<2ヶ月単位>
暦日数:62日 法定労働時間:354.2時間
暦日数:61日 法定労働時間:348.5時間
暦日数:60日 法定労働時間:342.8時間
暦日数:59日 法定労働時間:377.1時間

<3ヶ月単位>
暦日数:92日 法定労働時間:525.7時間
暦日数:91日 法定労働時間:520.0時間
暦日数:90日 法定労働時間:514.2時間
暦日数:89日 法定労働時間:508.5時間

清算期間のフレックスタイム制の場合は、各月の労働時間は関係なく、あくまでも清算期間の総労働時間で判断します。4月から6月までの実労働時間は、540時間だったので、法定労働時間を20時間超過していることになります。

2)1ヶ月ごとで週平均が50時間以上になっている月の有無を確認

3ヶ月間の総労働時間とは別に、清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制では、週平均労働時間が50時間を超える時間については、その月の残業時間としてその月での清算が必要になります。
週平均が50時間となる月間の総労働時間については、以下の表を参照ください。

暦日数:31日 週平均50時間となる月間労働時間数:221.4時間
暦日数:30日 週平均50時間となる月間労働時間数:214.2時間
暦日数:29日 週平均50時間となる月間労働時間数:207.1時間
暦日数:28日 週平均50時間となる月間労働時間数:200.0時間

今回のケースにおける週平均50時間となる月間労働時間数は、4月:214.2時間 5月:221.4時間 6月214.2時間となります。この時間数と実際に労働した時間を比較すると、4月:220時間 5月:180時間 6月:140時間なので、4月が「5.8時間」超過しています。
この時間については、清算期間の途中であってもその月の給与支払い日に時間外手当を支払う必要があります。つまり、1ヶ月を超える清算期間のフレックスタイム制であっても、週平均50時間を超えているかどうかのチェックは、毎月の給与計算時に行わなければなりません。

3)清算期間終了後に法定労働時間の総枠を超えた分の割増賃金の支払

清算期間の総枠を超えて労働した時間については、清算期間終了後に最終月の時間外労働としてカウントすることになります。
今回のケースでは、3ヶ月間の総労働時間は540時間でした。労働時間の総枠は520時間なので、20時間超過しています。すでに、4月に週平均50時間を超えた5.8時間分については清算をしているので、20時間から5.8時間を控除した14.2時間分を時間外手当として支給することになります。
なお、清算期間の途中で昇給があった場合でも、残業時間が確定したのは清算期間の最終日と考えます。したがって、14.2時間すべてについて、最終日の給与額で割増賃金を計算します。

 

今回の法改正で、週労働時間が50時間を超えた場合には、割増賃金の支払いが義務になりました。清算期間の総労働時間が法定労働時間の範囲内であったとしても、その月に支払わければならない週50時間超の時間に対する割増賃金を会社に戻す(清算期間の最終月であれば支払わない)ことはできません。
1ヶ月を超える清算期間のフレックスタイム制を導入する場合は、週平均50時間を超えている時間がないか、毎月忘れずにチェックしてください。

 

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