会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
目次
先日とある週刊誌で「有給休暇の買い取りを解禁すれば最大40万円弱もの年収アップになる」といった内容の記事が掲載されました。確かに、我が国は有給休暇の取得率が他の国と比べて低いため、取得できなかった有給休暇を企業に買い取ってもらった方が労働者にはメリットがあるように思えます。
しかし、労働基準法では、有給休暇を使用者が買い取ることを禁止しています。なぜなら、有給休暇は、『労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資する』という趣旨のもとで存在しているからです。
有給休暇の買い取り制度を認めてしまうと「どうせ買い取ってもらえるなら有給休暇を取得しない」ことも考えられ、本来の趣旨にマッチしないため原則として禁止されているのです。しかし、絶対に買い取りできないかというと必ずしもそうではなく、後で述べる例外も認められています。
有給休暇は、従業員にとって身近な存在です。そのため、こじれると労務トラブルに発展してしまうケースもあります。今回は、有給休暇の基礎知識やルールについて見ていきます。
<有給休暇の取得率>
まず、我が国の有給休暇の取得率を見ていきましょう。厚生労働省の就労条件総合調査によると、平成23年度の1年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数は除く。)は、労働者1人平均18.3日(前年17.9日)となっています。そのうち労働者が取得した日数は9.0日(同8.6日)で、取得率は49.3%(同48.1%)です。
次に、取得率を企業規模別にみると、1,000人以上が56.5%(同55.3%)、300~999人が47.1%(同46.0%)、100~299人が44.0%(同44.7%)、30~99人が42.2%(同41.8%)となっており、会社が大きくなればなるだけ有給休暇の取得率は上がることがわかります。
ちなみに、他国の取得率の状況を見てみると、ある民間の会社が行った調査によれば、有給休暇を使い切る(取得率100%)国ベスト3は、フランス(89%)、アルゼンチン(80%)、ハンガリー(78%)となるそうです。
【年次有給休暇の付与及び取得状況】
【平成24年度調査 年次有給休暇の付与及び取得状況(企業規模別)】
<有給休暇の基本的なルール>
年次有給休暇は、①入社から6か月経過し、②その期間の全労働日の8割以上出勤していると10日間の有給休暇が付与されます。また、次の1年間に、その期間の全労働日の8割以上出勤する要件を満たせば11日間の年次有給休暇が付与され、その後も毎年同様に所定の日数が付与されます。
この年次有給休暇は、アルバイトやパートタイマーなど、所定労働日数が少ない従業員にも付与されます。しかし、付与される日数は正社員とは異なり、労働日数や労働時間数によって計算します。
その人の1週間の所定労働時間が30時間以上であるか、あるいは所定労働日数が週5日以上(週で所定労働日数が決まっていない場合は1年間の所定労働日数が217日以上)であれば、正社員と同じ日数の有給休暇が付与されます。
一方、週所定労働時間が30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下(又は1年間の所定労働日数が48日から216日まで)の労働者は下の表の有給休暇が付与されることになります。
週5日以上の所定労働日数のパートタイマーであれば、どんなに勤務時間が短くても正社員と同じ有給休暇の日数がもらえるのは不思議な感じがします。しかし、有給休暇を取得するときには、勤務時間が短いパートタイマーはその所定勤務時間分で1日の有給休暇になります。有給休暇1日あたりにすると、正社員は8時間分、パートタイマーは例えば4時間分の給与しか受け取らないため、同じ日数の有給休暇が付与されることになっているのです。
<今の法律でもできる有給休暇の買い取り>
前述したように、有給休暇の買い取りは禁止されています。しかし、退職時や時効で消滅する有給休暇を買い取ることは現在の法律でも可能です。現在の法律で禁止されている買い取りとは、あらかじめ買い取ることを約束することや、買い取り金額を決めておくことです。
結果的に残って消滅してしまう退職時や時効消滅時の有給休暇を買い取ることは、違法ではありません。この場合の買い取り価格は本来権利が消滅するものですから、自由に設定することができます。とはいえ、人によって金額がばらばらではかえってトラブルになりますので、会社にすれば平等に運用することが大切です。しかし、あらかじめ価格を設定し、買い取ることを公表するのは違法になります。
有給休暇の買い取りは、使用者側からすれば法律の趣旨にあるとおり「高い金額にすれば有給休暇を取得しなくなる。」、労働者側からすれば「取得できないで消滅したのだから1日分の賃金で買い取らないとおかしい。」と立場によって主張が異なります。
そのため一筋縄では行かないと思いますが、現在のあいまいな状況も好ましくありません。例えば、買い取り日数や買い取り金額を限定するなどの工夫をして、労使ともに納得できる有給休暇の買い取り方法をルール化してもらいたいところです。
<人事給与アウトソーシングで解決するためのヒント>
有給休暇の消化をきちんとされる従業員とそうでない従業員がいます。消化ができていない従業員によっては、「会社の指示でこれだけ働いたのだからもっと報われるべき」と考える従業員の方もいるはずです。本来、有給休暇は計画通り取得されることが望ましく、その実現のために、従業員とその上長の計画的な作業と有給休暇を消化できる仕組みが効果を発揮する場合があります。鈴与シンワートの人事給与アウトソーシング「S-PAYCIAL」であれば、有給取得が芳しくない社員にはフラグを立て、従業員とその上長に有給取得のアラートを上げる仕組みや残業時間が少なくなってきたタイミングで有給休暇取得をお勧めするシステムの構築もできます。鈴与シンワートはお客様の快適で健全な人事・労務環境を支援いたします。
導入事例については以下をご覧ください。
導入事例はこちら
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策