川島孝一
第87回  投稿:2020.08.03 / 最終更新:2020.08.03

コロナ感染と労災認定

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除されました。これからしばらくの間は、感染リスクを可能な限り低くする対策を行い、ウイルスと共存することが求められています。
最近、よく質問をいただくのは、「仕事中や通勤中に新型コロナウイルスに感染してしまったら、労働災害や通勤災害として認定されるのか?」というものがあります。
今回は、仕事中に新型コロナウイルスに感染してしまった場合の労災認定についてみていきたいと思います。

業務災害について

業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡をいいます。業務上の傷病と認定されるためには、次の2つの条件を満たすことが必要になります。

①「業務遂行性」:事業主の支配下にあること。
②「業務起因性」:業務と傷病の間に一定の因果関係があること。

この「業務遂行性」と「業務起因性」のどちらか一方が欠けてしまうと業務災害と認定されません。
それでは、業務遂行性と業務起因性についてもう少し詳しく見ていきましょう。

① 業務遂行性とは
業務遂行性とは、労働契約に基づいて「事業主の支配下にある状態」のことをいいます。これは、契約書に記載のある仕事をしているときにだけ業務遂行性が認められるということではありません。たとえば、休憩中であったとしても、事業場の施設の不備が原因で負傷した場合は業務遂行性が認められます。反対に、休憩中に会社の敷地外に買い物や食事に出かけた場合は、事業主の支配下にある状態とはいえないので業務遂行性は認められません。
また、出張中や移動中も業務遂行性が認められることになります。当然ですが、出張中や移動中であったとしても、明らかな私的行為を行っている場合は、業務遂行性は認められません。
なお、通勤はここでの移動中には含まれません。通勤中の災害については、労災に準じるものとして「通勤災害」として別枠で取り扱われます。

② 業務起因性とは
 業務起因性とは、怪我や病気の発生原因が仕事(業務)となっているということです。つまり、業務起因性が認められるには、業務と傷病の間に一定の因果関係が認められる必要があります。社内で勤務中であったとしても、従業員同士のケンカで負傷してしまった場合や、大地震などの自然災害による負傷は業務との因果関係がないため、業務起因性を認められません。ただし、例外として事業場の不備と自然災害が相まって発生した災害は業務起因性が認められることがあります。
また、長時間労働によって、脳血管疾患や心疾患を発生してしまった場合、業務起因性が認められるケースがあります。これらの疾患については、業務起因性が認められるか否かについて、会社側と被災労働者側で争いになり訴訟に発展することも珍しくありません。

新型コロナウイルスの労災について

前述のように労災認定をされるためには、業務遂行性と業務起因性の2つの要件を満たす必要があります。怪我をしたケースと違い、新型コロナウイルスの場合は、業務中に感染したかどうかを会社が判断することが困難です。
そのような問題があるため、厚生労働省は、令和2年4月28日に取扱い方法を発表しました。(基補発0428第1号)
発表された文章は読みにくいので、少し手を加えて解説します。

【国内の場合】

医療従事者等
患者の診療、看護の業務、または介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となること。

医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定された者
感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となること。

具体例としては、次のようなケースが挙げられています。
・飲食店の店員等で、新型コロナウイルス感染者が店舗に来店していたことが確認されたため、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
・労働基準監督署における調査の結果、同時期に複数の同僚労働者の感染が確認され、クラスターが発生したと認められた。

医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されない者
調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。
この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。

(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務
(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

具体例としては、次のようなケースが考えられます。
・小売店販売員が店頭での接客業務等に従事していたが、発熱、咳等の症状が出現したため、PCR検査を受けたところ新型コロナウイルス感染陽性と判定された。
・労働基準監督署において調査したところ、感染経路は特定されなかったが、発症前の14日間の業務内容については、日々数十人と接客し商品説明等を行っていた。

 

今回は、業務中に新型コロナウイルスに感染した場合の取り扱いを説明しました。
次回は、通勤中に新型コロナウイルスに感染した場合の取り扱いについてみていきたいと思います。

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