川島孝一
第94回  投稿:2021.03.30 / 最終更新:2021.03.29

70歳までの雇用延長~その2

高年齢者雇用安定法が改正され、2021年4月から70歳までの就業確保措置を講じることが『努力義務』となります。あくまでも努力義務なので、定年を70歳に引き上げなければならないというわけではありません。しかし、高年齢者の活用は今後重みを増してくるので、改正内容は理解しておいた方がよいでしょう。
前回に引き続き、65歳から70歳までの就業確保措置についてみていきたいと思います。

70歳までの就業確保措置について

65歳までの雇用確保措置はこれまで通りの内容で会社の義務ですが、65歳から70歳までの就業確保措置については、新たにできた努力義務です。この「就業」確保というのが、法改正のポイントです。
就業確保措置の内容は、次の5つのいずれかになります。前回は、最初の3つを説明したので、今回は「創業支援等措置」と呼ばれる残りの④と⑤について紹介します。

① 70歳までの定年引き上げ
② 定年制の廃止
③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託する団体が行う社会貢献事業
C.事業主が出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
この制度は、雇用契約によらない業務委託契約となります。そのため、この制度により業務を継続する高年齢者は、「労働者」としての保護を基本的には受けることができません。
「業務委託」とは、注文主(会社)から受けた仕事の完成に対して報酬が支払われる契約で、注文主の指揮命令を受けない「個人事業主」として扱われます。支払われるのは賃金ではなく報酬になりますので、本人が確定申告を毎年行うことになります。
労働者でなくなる制度のため、導入する際には、過半数労働組合等の同意が必要になります。

⑤ 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入
この制度も、雇用契約によらない契約になるので、導入する場合は過半数労働組合等の同意が必要になります。
内容については、簡単に言ってしまうと、高年齢者が社会貢献事業に従事する制度です。「社会貢献事業」とは 不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のことです。
どのような事業が「社会貢献事業」に該当するかは、事業の性質や内容等を勘案して個別に判断します。 なお、以下のような事業は、高年齢者雇用安定法における「社会貢献事業」に該当しません。

・特定の宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成することを目的とする事業
・特定の公職の候補者や公職にある者、政党を推薦・支持・反対することを目的とする事業

言い換えると、上記に該当する事業でなければある程度自由に決めることができます。

次に、社会貢献事業の形態を見ていきます。社会貢献事業の形態には、大きく分けて次の3つのパターンがあります。

A.事業主が自ら実施する社会貢献事業
B.事業主が委託する団体が行う社会貢献事業
C.事業主が出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

BとCの措置を取る場合は、会社と社会貢献事業を行う団体との間で、団体が高年齢者に対して社会貢献活動に従事する機会を提供することを約した契約を締結する必要があります。第三者が関係してきますので、契約は書面により締結した方が良いでしょう。

Cの出資と団体の定義については、厚生労働省が作成したパンフレット「高年齢者雇用安定法改正の概要」に記載があります。

「出資(資金提供)等」とは、自社以外の団体が実施する社会貢献事業に従事できる制度を選択する場合、自社から団体に対して、事業の運営に対する出資(寄付等を含む)や事務スペースの提供など社会貢献活動の実施に必要な援助を行っている必要があります。

「団体」は、公益社団法人に限られません。ア)委託、出資(資金提供)等を受けていてイ)社会貢献事業を実施していれば(社会貢献事業以外も実施していても構いません。)、どんな団体でも「団体」となることができます。

創業支援等措置を実施する際の手続きについて

④と⑤の創業支援等措置を講ずる場合には、次の手順に即した手続きを行う必要があります。
1)計画書の作成
2)過半数労働組合等の同意
3)計画の周知

1)計画書の作成
まず初めに、次の事項を記載した計画を作成します。

・高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由
・高年齢者が従事する業務の内容に関する事項
・高年齢者に支払う金銭に関する事項
・契約を締結する頻度に関する事項
・契約に係る納品に関する事項
・契約の変更に関する事項
・契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)
・諸経費の取り扱いに関する事項
・安全および衛生に関する事項
・災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
・社会貢献事業を実施する団体に関する事項
・創業支援等措置の対象となる労働者の全てに適用される事項

2)過半数労働組合等の同意
計画書の作成が完了したら、過半数労働組合等の同意を得る必要があります。同意を得ようとする際には、過半数組合等に対して、以下の項目を丁寧に説明します。
特に、(ア)については後々トラブルとなる可能性がありますので、より丁寧な対応が求められます。

(ア)労働基準法等の労働関係法令が適用されない働き方であること
(イ)そのために創業支援等措置の計画を定めたこと
(ウ)創業支援等措置を選択する理由

3)計画の周知
過半数労働組合等の同意を得たら、最後にその計画を従業員に周知します。周知の方法は、就業規則や36協定等と同じです。

・常時当該事業所の見やすい場所に掲示する、もしくは備え付ける
・書面を労働者に交付する
・電子媒体に記録し、それを常時モニター画面等で確認できるようにする

 

前回と今回で、高年齢者雇用安定法の法改正について紹介をしました。繰り返しになりますが、今回の法改正では、65歳以上の就業確保措置については努力義務です。しかし、退職者が年金のみで生活していくことはなかなか困難な状況にあるため、高年齢者も年金を受給しつつ就業するという流れは今後加速していくものと考えられます。
自社にとってどのような制度が人事戦略上、効果的なのかを検討していく必要があるでしょう。

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