川島孝一
第117回  投稿:2023.03.06 / 最終更新:2023.04.07

給与のデジタル通貨払い

 

鈴与シンワートが提供する管理部門の業務ソリューション「S-PAYCIAL」

厚生労働省は2022年9月13日に開催された労働政策審議会で、2023年から電子マネーで給与を支払う「デジタル通貨払い」を解禁することを決めました。現在の給与支払い方法は、「現金」もしくは「口座振込(銀行、証券)」の2パターンですが、今後はデジタル通貨での支払いが加わることになります。

給与をデジタル通貨で支払う方法について、徐々に具体的な内容がわかってきたので、今回はそれを説明します。

 

労働基準法で定められている給与支払いのルールについて

給与の支払い方法のルールについては、労働基準法第24条1項と2項で以下のように定められています。

 

1.賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

ただし、法令もしくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときにはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

2.賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。

ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省で定める賃金についてはこの限りでない。

 

この条文の中には、5つのルールが含まれています。この5つのルールのことを、総称して「賃金支払いの5原則」と呼びます。

① 通貨払いの原則

② 直接払いの原則

③ 全額払いの原則

④ 毎月1回以上払いの原則

⑤ 一定期日払いの原則

電子マネーで給与を支払う「デジタル通貨払い」

これまでデジタル通貨での支払いができなかったのは、「①通貨払いの原則」があるからです。現在は、現金で給与を支払うよりも、銀行振込で支払うケースが多くなりました。そのため、給与は振込が当たり前と思っている方も多いと思います。しかし、労働基準法では、賃金は貨幣での支払いを原則としていますので、振込での支払いは例外という位置づけです。

この例外については、労働基準法施行規則で定められています。現在は、「①銀行口座」と「②証券総合口座」への支払いが認められています。ただし、例外を適用させるには、労働者の同意を得た場合のみ可能となります。この同意については、労働者の意思にもとづくものであればその形式は問わないものとされていますが、口座振込を通貨払いの原則の例外として有効なものにするために、また正確な振込処理を実行するためにも、同意は口頭によるものではなく書面で行ったほうが良いでしょう。

今回のデジタル通貨払いについては、2023年4月1日に、労働基準法施行規則の改正によって、「③資金移動業者の口座」が例外に追加されます。これにより、給与のデジタル通貨払いが可能になります。

 

デジタル通貨払いができるタイミング

2023年4月1日に改正が行われるため、その日からデジタル通貨払いが可能になるというイメージの方が多いかと思います。実は、すぐにデジタル通貨払いが可能になるわけではありません。

その理由ですが、賃金の確実な支払いを担保するため、要件を満たす資金移動業者を選定する必要があるためです。資金移動業者の口座で賃金を受け取るまでの流れは以下のようになっています。

 

①2023年4月1日から、資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行います。

 

②申請を受け付けた後、厚生労働省で審査を行い、基準を満たしている場合にはその事業者を指定します。
この審査には、数ヶ月かかることが見込まれます。指定された資金移動業者については、厚生労働省のホームページで公表されることになっています。

 

③その後、各事業場で、賃金のデジタル通貨払いを行う場合には、利用する指定資金移動業者などを内容とする労使協定の締結を行います。

 

④その上で、労働者は賃金のデジタル通貨払いの留意事項の説明を聞き、理解した上で、賃金のデジタル通貨払いを希望する場合には、使用者に同意書を提出します。この同意書に記載する支払開始希望時期以降、賃金を資金移動業者の口座で受け取ることができるようになります。

デジタル通貨払いを行うために必要な手続き

デジタル通貨払いを行う際に必要な手続きについて

給与のデジタル通貨払いを行う際には、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と、デジタル通貨払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した「労使協定」を締結する必要があります。銀行振込の場合は労使協定の締結までは求められていませんでしたので、ここが大きく違う点です。

その上で、給与のデジタル通貨払いを希望する個々の労働者は、留意事項等の説明を受け、制度を理解した上で、「同意書」にデジタル通貨で受け取る賃金額や、資金移動業者口座番号、代替口座情報等を記載して、使用者に提出することが必要になります。

同意書と留意事項の様式例については、厚生労働省のホームページで公表されています。

 

 

今回は、給与のデジタル通貨払いについて説明してきました。デジタル通貨払いは、労働者が希望すれば必ず行わなければならないものではありません。あくまでも、会社と労働者双方の意思がそろって初めて可能になります。

デジタル通貨払いの内容は改正日に向けて徐々に決まってきていますが、指定資金移動業者など詳細が決まっていない点もあります。興味がある会社の担当者は、今後の動向を注視していく必要があります。

デジタル通貨払いは、2023年4月1日から解禁になるような報道がされていますが、その日を過ぎたからといって、手順を踏まずに勝手に電子マネーで給与を支払ってしまうと労基法違反となってしまいます。くれぐれも先走らないように注意しましょう。

 

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