給与のデジタル通貨払い~その2
目次
厚生労働省は2022年9月13日に開催された労働政策審議会で、2023年4月から電子マネーで給与を支払う「デジタル通貨払い」を解禁することを決めました。現在の給与支払い方法は、「現金」もしくは「口座振込(銀行、証券)」の2パターンですが、今後はデジタル通貨での支払いが加わることになります。
給与のデジタル通貨での支払いが可能になると、「旅費交通費や経費の精算も可能になるのか?」や「不正取引があった場合の補償はどうなっているのか?」といった疑問が出てくる方もいらっしゃると思います。
前回はデジタル通貨払いを実施するまでの概略を説明しましたので、今回はデジタル通貨払いの実務的な内容をもう少し詳しく見ていきたいと思います。
労働基準法での賃金の定義について
賃金の定義は、労働基準法第11条で定められています。
「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」
条文を読むだけではしっくりこないかもしれませんが、ここでのポイントは次の2点です。
①労働の対償として支払ったものかどうか?
②使用者が労働者に対して支払っているのか?
当たり前のことですが、会社によって手当などの名称はさまざまです。労働基準法上の賃金に該当するかどうか迷ってしまったら、上記の2点について確認をすれば正しい判断ができると思います。
また、行政からも賃金に該当する場合としない場合の通達が出されています。
賃金に該当する場合
①労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確である場合の退職手当は賃金である。
②労働者が負担すべき社会保険料を使用者が労働者に代わって負担する場合、当該使用者が負担する部分は賃金に該当する。
③現物給与に関しては、労働者から代金を徴収するものは原則として賃金ではないが、その徴収金額が実際費用の3分の1以下であるときは、徴収金額と実際費用の3分の1との差額分については、これを賃金とみなす。
賃金に該当しない場合
①実費弁償的なもの(出張旅費等)は賃金ではない。
営業交通費や経費精算などについては、実費弁償的なものに該当するため、賃金には該当しません。
②使用者が任意的、恩恵的に支払うもの(退職金、結婚祝金、香典)は賃金ではない。ただし、あらかじめその支給条件が労働協約、就業規則、労働契約等によって、明確にされているものについては賃金とみなされる。
③会社法による新株予約権(ストック・オプション)制度について、この制度から得られる利益は、それが発生する時期及び額ともに労働者の判断にゆだねられているため、労働の対価ではなく賃金ではない。(労働基準法上は賃金に該当しませんが、所得税法上は賃金に該当することになっています)
④旅館の従業員などが客から直接受けるチップは、使用者が労働者に支払うものではないので賃金ではない。
通勤手当は、労基法上の賃金に該当するため、デジタル通貨払いの対象となります。一方で、営業交通費や経費精算などについては、労基法上の賃金に該当しないため、現時点ではデジタル通貨払いの対象からは外れると考えられます。
しかし、営業交通費や経費を給与に加算して清算する会社も多く存在します。この分だけ除外するというのは現実的でないので、今後対応方法などが出される可能性があります。これらを給与で清算していて、デジタル通貨払いを行う予定の会社は、今後の発表を注視しておきましょう。
不正取引や業者の破綻があった場合の対応
ここまでで、労働基準法上の賃金の定義を紹介しました。賃金の定義を紹介した理由は、デジタル通貨の不正取引が発生した場合や、指定資金移動業者が破綻した場合の対応に影響が出る可能性があるためです。
デジタル通貨の不正取引がされた場合の補償については、従業員に過失がない場合は、全額補償されます。反対に、従業員に過失がある場合には補償されないといったルールは設定されていません。この場合は、個別に勘案をして対応するとされています。
また、指定資金移動業者による補償が、損失発生日から一定の期間内に従業員から指定資金移動業者に通知することが要件になっている場合もあります。この場合は、通知期限まで、損失発生日から少なくとも30日以上は確保されることになっています。
なお、指定資金移動業者が破綻した場合は、保証機関から弁済が行われます。
このように、賃金に関しては従業員の不利益にならないように対策されていますが、賃金に該当しない部分は補償や弁済がされない場合が考えられます。デジタル通貨払いをスタートする前に、先ほどの経費精算など、自社で支払っている給与の内容を確認した方がよいでしょう。
デジタル給与の受取額と口座の上限額について
資金移動業者口座の資金は、預貯金口座の「預金」とは異なり、支払や送金を目的としています。そのため、支払などに使う見込みのある額を設定する必要があります。送金や決済等に利用しない資金を滞留させないことが求められているので、指定資金移動業者の口座の上限額は、100万円以下に設定されています。
上限額を超えた場合は、従業員が指定した銀行口座に自動的に出金されることになります。ただし、自動的に出金される際の手数料は、従業員が負担する可能性があります。
口座残高の現金化について
デジタル通貨で支払われた賃金は、ATM等への出金によって、払い出すことも可能です。少なくとも毎月1回は、従業員に手数料負担が生じることなく指定資金移動業者口座から払出をすることができます。
また、口座残高については、最後の入出金日から少なくとも10年間は、払い戻してもらうことが可能です。
今回は、賃金のデジタル通貨払いの具体的内容について説明してきました。今後も、疑義に対する回答や詳細など、さまざまな情報が厚生労働省から公表されると思い118
賃金のデジタル通貨払いの導入を検討している経営者や担当者は、それらを注視しておきましょう。
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