タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
目次
これまで適用を猶予されていた自動車運転手の時間外労働の上限規制が、2024年4月からスタートします。上限規制が始まるだけでなく、運転手の拘束時間や休息時間などを定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)についても改正されます。
前回までに説明したトラック運転者の内容に引き続き、今回は「タクシー、ハイヤー運転者」のうちタクシー運転者の改善基準告示についてポイントをみていきたいと思います。
隔日勤務と日勤勤務について
タクシー運転者の勤務時間には、大きく分けて「日勤勤務」と「隔日勤務」の2種類があります。
「日勤勤務」は、朝から夕方までや夕方から明け方までの乗務を日々繰り返す勤務形態のことをいいます。
一方で、「隔日勤務」は、始業と終業の時刻が同一の日に属さない業務をいいます。2労働日の勤務を一勤務にまとめて行うものであり、深夜時間帯における公共交通機関としての役割を果た すタクシー業において、都市部を中心に広く採用されている勤務形態です。
たとえば、 朝 7 時半に始業して、翌朝 4 時半に終業、終業後はそのまま休息期間となり、終業翌日の 7 時半に出社、始業するといった勤務形態です。
タクシー運転者の改善基準告示は、「日勤勤務」と「隔日勤務」でルールが異なります。
日勤勤務者の拘束時間と休息期間
改善基準告示は、タクシー運転者の労働実態を考慮して、拘束時間、休息時間について基準を定めています。拘束時間と休息時間の定義は以下のように定められています。
拘束時間:
労働時間と休憩時間の合計時間をいいます。始業時間から終業時間までのトータル時間になります。
休息期間:
勤務と次の勤務の間の時間のことをいいます。睡眠時間を含む労働者の生活時間として自由な時間となります。
1)日勤勤務者の1か月の拘束時間
現状のルール(2024年3月まで)では、1か月の拘束時間は、原則として299時間が限度です。
2024年4月からは、1か月の拘束時間は288時間以内になります。
2)日勤勤務者の1日の拘束時間と休息期間
これまで(2024年3月まで)は、1日(始業時刻から起算して24時間)の拘束時間は13時間以内が基本であり、延長する場合は16時間が限度です。また、1日の休息期間は、勤務終了後、継続して8時間以上が必要です。
これが、2024年4月からは、基本の1日の拘束時間は13時間以内で変更ありませんが、延長する場合の上限時間は15時間になります。
また、1日の拘束時間について13時間を超えて延長する場合は、14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努める必要があります。回数は1週について3回までが目安となります。 この場合において、14時間を超える日が連続することは望ましくないとされています。
1日の休息期間は、勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、 継続9時間を下回ってはならないことになります。
隔日勤務者の拘束時間と休息期間
1)隔日勤務者の1か月の拘束時間
1か月の拘束時間は、原則として262時間が限度であり、例外として、地域的事情その他の特別な事情(たとえば顧客需要の状況等)がある場合において、書面による労使協定を締結した場合には、 1年のうち6か月までは、1か月の拘束時間を270時間まで延長することができます。
この部分については、2024年4月以降も変更はありません。
2)隔日勤務者の2暦日の拘束時間、2暦日の休息期間
現状のルール(2024年3月まで)の2暦日の拘束時間は21時間が限度です。休息期間は、勤務終了後、継続して20時間以上必要です。
これが、2024年4月からは、隔日勤務者の2暦日の拘束時間は22時間以内に伸びますが、2回の隔日勤務を平均して、1回あたり21時間以内にしなければなりません。
2回平均1回の隔日勤務の拘束時間の算定は、特定の隔日勤務を起算点として、2回ずつの隔日勤務に区切り、それぞれの隔日勤務の平均を計算します。
この特定の隔日勤務の拘束時間が改善基準告示に違反するかは、次の①②の両方が21時間を超えているかにより判断します。
① 特定の隔日勤務の拘束時間と特定の隔日勤務の前の隔日勤務の拘束時間との平均
② 特定の隔日勤務の拘束時間と特定の隔日勤務の次の隔日勤務の拘束時間との平均
少しわかりにくいので、具体例をみてみましょう。
・1月1日~2日:拘束時間15時間 *A
・1月3日~4日:拘束時間21時間 *B
・1月5日~6日:拘束時間22時間 *C
① 特定日の拘束時間と、特定日の前回の隔日勤務の拘束時間との平均を計算します。
今回の場合、特定日はBの勤務になります。特定日の拘束時間は、21時間で、特定日の前回の拘束時間は15時間となります。
(21時間+15時間)÷2=18時間となります。 (AとBの2回の平均)
②特定日の拘束時間と、特定日の次の隔日勤務の拘束時間との平均を計算します。
(21時間+22時間)÷2=21.5時間となります。(BとCの2回平均)
②は21時間を超えていますが、①の平均が21時間を超えていないので、改善基準告示違反とはなりません。
隔日勤務者の2暦日の休息期間は、勤務終了後、継続24時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続22時間を下回ってはなりません。また、日勤勤務と隔日勤務を併用して頻繁に勤務態様を変えることは、労働者の生理的機能への影響を考慮して認められないことになっています。
今回は、タクシー運転者の拘束時間や休息時間についてみてきました。すべてのポイントを説明することができなかったので、次回もタクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示のポイントについてみていきます。
関連するコラムはこちら
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策