健康経営について
目次
数年前から、「健康経営」という言葉を聞く機会が多くなってきました。「健康経営は大企業が行うもので、中小企業には関係がない」と考えている経営者や実務担当者の方もいらっしゃると思います。
今回は、健康経営について見ていきたいと思います。
健康経営とは
健康経営の考え方は、1980年代にアメリカで生まれました。それから数十年が経過して、日本でも「健康経営」という言葉が聞かれるようになってきました。
健康経営の定義については、経済産業省ヘルスケア産業課が発行した「企業の健康経営ガイドブック(改定第1版)」にこのように記載されています。
健康経営とは、従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資(健康投資)であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること。
このように、健康経営とは「将来的に収益性を高める投資である」という考えを持つということが第一歩です。言い換えれば、「健康経営を行ったからといってすぐに収益が向上するというものではない」という認識を持つことが重要になります。
したがって、結果が出なかったとしても取り組みを止めるのではなく、我慢強く継続していくことが必要です。
「従業員の健康を保持・増進することが大切である」ということは、説明を受けなくてもなんとなく大切なことだと感じると思います。
健康経営を行うことのメリットについて、世界中に事業展開をしているジョンソンアンドジョンソンが行った調査があります。この調査は、ジョンソンアンドジョンソングループ250社、約11万4000人に健康教育プログラムを提供し、投資に対するリターンを試算するというものです。その結果、健康経営に対する投資1ドルに対するリターンは、3ドル分の投資リターンがあるとされました。
反対にメンタルヘルスの不調が企業業績に与える影響も検証されています。メンタルヘルス休職者の比率が上昇した企業は、それ以外の企業と比べて売上高利益率の落ち込みが大きいことがわかりました。また、従業員がメンタルヘルスの不調に陥った原因が長時間労働によるものだった場合、会社は損害賠償請求を受ける可能性も出てきます。メンタルヘルスの不調による休職者が多い場合は産業医等の専門家に相談の上、早急に対応をしていく必要があります。
これらの調査の結果でもわかるように、従業員の健康は会社の利益に直結するものです。これまでは、従業員の健康は従業員自身で保持・増進をするものとされていました。そのため、会社は、法律で定められている健康診断などは行ってきましたが、それ以上に踏み込んで取り組みを行うことはあまりありませんでした。
しかし、2つの調査を踏まえて経営戦略を考えたときに、従業員の健康という視点を欠いてしまうのは会社にとってデメリットになります。
ストレスチェック制度について
「メンタルヘルス不調による休職者が増えれば増えるほど企業業績に影響を与える」ということは調査によって明らかになっています。従業員数が50人以上の事業所は、常時使用する労働者に対して、ストレスチェックを実施することが義務となっています。義務付けされていない50人未満の事業所であっても、積極的に実施することでメンタルヘルスの不調を未然に防止していく効果を期待することができます。
ストレスチェック制度の概要についても見ておきましょう。
ストレスチェック制度は、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させることが目的です。さらにその中で、メンタルヘルス不調のリスクの高い者を早期に見つけて医師による面接指導につなげることで、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するための取り組みでもあります。
健康経営を進めていくためのステップについて
実際に健康経営を進める手順も、経済産業省ヘルスケア産業課が策定しています。パンフレットを見ると4つのステップで成り立っています。
ステップ① 「健康宣言」を実施する。
最初のステップでは、健康経営を経営理念の中に明文化し、企業として取り組む姿勢を社内外に発信します。従業員の健康を経営課題として捉えて、健康経営に取り組むためには、経営トップがその意義や重要性をしっかり認識してその考えを社内外に示すことが重要です。
例えば、健康経営を推進している会社の社長がヘビースモーカーや運動をまったくしない05状態では、社外はもちろん社内に対しても説得力が無くなってしまいます。健康宣言を作成して公表するだけでなく、経営トップがジョギングをしたり、健康診断を率先して受けるといった姿勢を見せることが重要です。
健康宣言の内容については、コニカミノルタグループ・ローソングループ・東急グループ等をはじめとして、さまざまな企業がホームページ上で公表をしています。自社の健康宣言を検討する上で参考にするとよいでしょう。
ステップ② 実施できる環境を整える。
2つ目のステップは、健康経営を推進していく組織体制の構築になります。組織作りについては、専門の部署を設置したり、人事部や総務部など既存の部署に担当者を置くといった対応になることが多いようです。
また、取り組みの効果を高めるため、担当者に対しての研修なども検討する必要があります。健康宣言を実施したからといって、その会社に属している人の意識が180度変わるということはありません。すぐに結果が出なかったとしても、我慢強く継続していくことが大切です。
自社において、どのような組織体制が取り組みやすいのか検討した上で、体制を整えていきましょう。
ステップ③ 具体的な施策をする。
3つ目のステップでは、自社の健康課題を見つけ出し、目標を設定した上で施策を実行します。例えば、20代・30代の社員が肥満気味、喫煙者が多い、健康診断を受けていない社員がいるなどといった問題を見つけ出すことが必要です。この部分に関しては、他社の事例を使っても意味がないので、自社にあった施策を丁寧かつ具体的に検討する必要があります。
具体的な施策を検討する際に、「ブレスローの7つの健康習慣」を参考にするのも一つの方法です。これは、アメリカ・カリフォルニア大学のブレスロー教授が、生活習慣と身体的健康度との関係を調査した結果に基づいて提唱しています。これらの内のいくつかを習慣化できるような施策を検討してもよいでしょう。
- 喫煙をしない
- 定期的に運動をする
- 飲酒は適量を守るか、しない
- 1日7~8時間の睡眠を
- 適正体重を維持する
- 朝食を食べる
- 間食をしない
ステップ④ 取り組みを評価する。
4つ目のステップは、ステップ3で構築した具体的な施策が上手く機能しているかなどのチェックを行い、それを次の取り組みに生かすことです。なかなか成果が出ないこともありますが、トライアンドエラーを繰り返して根気強く行っていく必要があります。
PDCAサイクルがしっかりと機能するような体制を構築・維持することが重要となります。
今回は、健康経営について説明しました。会社の規模に関係なく従業員の健康管理は重要です。2023年は、健康経営の導入を検討されてみてはいかがでしょうか?
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