トラック運転者の改善基準告示~その1
目次
自動車運転手については、これまで適用を猶予されていた時間外労働の上限規制が2024年4月からスタートします。、上限規制がスタートとするだけでなく、運転手の拘束時間や休息時間などを定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)についても改正されます。
改善基準告示は運輸業以外の業種ではあまり聞きなれないかもしれませんが、運輸業に限らず、主たる業務が「自動車の運転である人」がこの改善基準告示を遵守しなければなりません。例えば、製造業などでも主として商品の配送に従事している場合は、営業用車両に限らず、自家用車を利用していても対象になります。
改善基準告示では、労働基準法では定められていない「拘束時間」「休息時間(休憩時間ではありません)」「連続運転時間」などを定めています。時間外労働が36協定の範囲内であったとしても、改善基準告示に違反していると、労働基準監督署の是正勧告の対象になります。
今回は、改正されるトラック運転者の改善基準告示について、ポイントをみていきたいと思います。
拘束時間と休息期間について
改善基準告示は、トラック運転者の労働実態を考慮して、拘束時間、休息時間について基準を定めています。拘束時間と休息時間は、次のように定義されています。
・拘束時間
労働時間と休憩時間の合計時間をいいます。
始業時間から終業時間までのトータル時間になります。
・休息期間
勤務と次の勤務の間の時間のことをいいます。
睡眠時間を含む労働者の生活時間として自由な時間となります。
【従前】 1か月の拘束時間(2024年3月まで)
現状のルールでは、1か月の拘束時間は、原則として293時間が限度となります。
ただし、毎月の拘束時間の限度を定める書面による労使協定を締結した場合には、1年のうち6か月までは、1年の拘束時間が3,516時間(293時間×12か月)を超えない範囲内であれば、1か月の拘束時間を320時間まで延長することができます。
【改正後】 1か月の拘束時間(2024年4月から)
2024年4月からは、1年の拘束時間は3,300時間以内、かつ、1か月の拘束時間は284時間以内になります。
ただし、労使協定により、1年のうち6か月までは、1年の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において、1か月の拘束時間を310時間まで延長することができます。
新たにルールとして追加されたのは、1か月の拘束時間が284時間を超える月は連続3か月までしか認められなくなった点と、1か月の時間外労働と休日労働の合計時間数は100時間未満になるように努める点です。
【従前】 1日の拘束時間と休息期間(2024年3月まで)
1日の拘束時間は13時間以内が基本となります。延長する場合は、16時間が限度になります。1日の定義については、始業時刻から起算して24時間となります。
また、15時間を超えることができるのは、1週間に2日までです。
1日の休息期間については、勤務終了後、継続して8時間以上必要となります。
【改正後】 1日の拘束時間と休息期間(2024年4月から)
1日の拘束時間は13時間以内が基本となります。延長する場合の上限時間は、15時間になります。
ただし、宿泊を伴う長距離貨物運送で、1回の運行における休息場所が住居地以外の場合は、週2回まで16時間まで延長することが可能です。
1日の休息期間は、勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、 継続して9時間を下回ってはなりません。
運転時間の限度について
2日を平均した1日当たりの運転時間と、2週間を平均した1週間あたりの運転時間に上限が定められています。それぞれの上限についてみていきましょう。
2日を平均した1日当たりの運転時間
1日の運転時間は、2日(2日間は、始業時刻から起算して48時間をいいます。)平均で9時間が限度となります。
2日平均の1日の運転時間の算定に当たっては、特定の日を 起算日として2日ごとに区切り、その2日の平均を計算します。
この特定日を起算とした運転時間が、次の2つのいずれも9時間を超えた場合は、改善基準告示に違反していると判断されます。
1)特定日の運転時間と特定日の前日の運転時間との平均
2)特定日の運転時間と特定日の翌日の運転時間との平均
少しわかりにくいので以下の具体例を使ってみていきましょう。
・12月1日:運転時間10時間
・12月2日:運転時間9時間 *特定日
・12月3日:運転時間9時間
まず、1)特定日の運転時間と特定日の前日の運転時間との平均を計算します。
今回の場合、特定日は12月2日です。特定日の運転時間は9時間で、特定日の前日の運転時間は10時間です。
(9時間+10時間)÷2=9.5時間 (12月1日と2日の平均)
次に、2)特定日の運転時間と特定日の翌日の運転時間との平均を計算します。
(9時間+9時間)÷2=9時間 (12月2日と3日の平均)
この場合、2)の方法で計算した結果が9時間を超えていないため、改善基準告示違反にはなりません。
2週間を平均した1週間あたりの運転時間
2週間を平均した1週間あたりの運転時間は44時間が限度となります。1週間あたりの運転時間の計算方法は、特定日を起算日として2週間ごとに区切り、その2週間ごとに平均を計算します。
この1週目と2週目の平均時間が44時間以内であれば、改善基準告示違反にはなりません。
連続運転時間
原則として、連続運転時間は4時間が限度となります。運転開始後4時間以内、または4時間経過直後に、30分以上の運転の中断が必要です。中断時には、原則として休憩する必要があります。
運転の中断は、1回がおおむね連続10分以上とした上で分割することも可能です。ただし、1回が10分未満の運転の中断は、3回以上連続することはできません。
なお、サービスエリアやパーキングエリア等が満車である等により駐車や停車ができず、やむを得ず連続運転時間が 4時間を超える場合には、4時間30分まで延長することができます。
今回は、トラック運転者の拘束時間や運転時間の限度についてみてきました。
改善基準告示はボリュームがあり、すべてのポイントを説明することができなかったので、次回もトラック運転者の改善基準告示のポイントについて触れたいと思います。
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策