タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
目次
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が、2024年4月から改正されます。改善基準告示は、タクシー、ハイヤー運転者、トラック運転者、バス運転者でそれぞれ定められています。
今回も、前回に引き続き、タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示についてポイントをみていきたいと思います。
車庫待ち等の自動車運転者について
タクシー会社の営業方法のひとつに、「車庫待ち」があります。「車庫待ち」とは、顧客の需要に応じるため車庫等において待機をして、呼び出し等があった場合に出庫する営業形態です。自動車運転者の労働時間等の改善のための基準では、「車庫待ち等」といいます。
「車庫待ち等」に該当する場合は、1か月や1日の拘束時間が原則の場合と異なります。次の要件のすべてに該当する場合は、「車庫待ち等」に該当するものとして取り扱うことができます。
1)事業場が人口30万人以上の都市に所在していないこと。
2)勤務時間のほとんどについて「流し営業」を行っていないこと。
3)夜間に4時間以上の仮眠時間が確保される実態であること。
4)原則として、事業場内における休憩が確保される実態であること。
なお、令和6年4月1日からの改正後の改善基準告示の適用の際、現に車庫待ち等の自動車運転者として取り扱われている労働者の属する事業場については、1)にかかわらず、当該事業場が人口30万人以上の都市に所在していても、当分の間、車庫待ち等の自動車運転者に該当するものとして取り扱うことができます。
日勤勤務の車庫待ち等の自動車運転者の場合
1)1か月の拘束時間
日勤勤務の車庫待ち等の自動車運転者の1か月の拘束時間は、288時間以内となります。
労使協定を締結することにより、1か月の拘束時間を300時間まで延長することができます。
2)1日の拘束時間
次の3つの要件を満たす場合、1日の拘束時間を24時間まで延長することができます。
① 勤務終了後、継続20時間以上の休息期間を与えること
② 1日の拘束時間が16時間を超える回数が1か月について7回以内であること。
③ 1日の拘束時間が18時間を超える場合には、夜間に4時間以上の仮眠時間を与えること。
隔日勤務の車庫待ち等の自動車運転者の場合
1)1か月の拘束時間
隔日勤務の車庫待ち等の自動車運転者の1か月の拘束時間は、262時間以内となります。
労使協定を締結することにより、1か月の拘束時間を270時間まで延長することができます。
2)2暦日の拘束時間
次の2つの要件を満たす場合、2暦日の拘束時間を24時間まで延長することができます。
① 夜間に4時間以上の仮眠時間を与えること。
② 労使協定により、2暦日の拘束時間が22時間を超える回数と、2回の隔日勤務の平均の拘束時間が21時間を超える回数の合計を1か月7回以内の範囲で定めること。
この条件を満たした場合は、「1か月の拘束時間」に10時間を加えることができるので、1か月の拘束時間は272時間以内(労使協定を締結した場合は280時間まで)に延長することができます。
予期し得ない事象への対応時間の取扱いについて
運転中に事故渋滞の発生や、乗務している車両が故障してしまう場合があります。そのようなトラブルが発生した場合は、1日および2暦日の拘束時間から予期し得ない事象への対応時間を除くことが可能です。
ただし、予期し得ない事象への対応時間により、1日や2暦日の拘束時間が最大拘束時間を超えた場合、勤務終了後、1日の勤務の場合には継続 11時間以上、2暦日の勤務の場合には継続 24時間以上の休息期間を与えることが必要となります。
「予期し得ない事象への対応時間」とは、次の両方の要件を満たす必要があります。
1)次のいずれかの事象により生じた運行の遅延に対応するための時間
① 運転中に乗務している車両が予期せず故障したこと。
② 運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航したこと。
③ 運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖されたこと、または道路が渋滞したこと。
④ 異常気象(警報発表時)に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となったこと。
この要件に該当するには、「通常予期し得ない」ものである必要があります。そのため、平常時の交通状況等から事前に発生を予測することが可能な道路渋滞等は該当しません。
2)客観的な記録により確認が可能
① 運転日報上の記録
対応を行った場所、予期し得ない事象に係る具体的事由、当該事象への対応を開始し、および終了した時刻や所要時間数が記載されている必要があります。
② 予期し得ない事象の発生を特定できる客観的な資料
・修理会社等が発行する故障車両の修理明細書等
・フェリー運航会社等のホームページに掲載されたフェリー欠航情報の写し
・公益財団法人日本道路交通情報センター等のホームページに掲載された道路交通情報の
(渋滞の日時・原因を特定できるもの)
ハイヤー運転者の時間外労働の上限規制等
ハイヤー運転者には、タクシー運転者に適用される拘束時間、休息期間等の規定は適用されません。
ハイヤー運転者に係る時間外・休日労働協定(36協定)を締結するに当たっては、 次の2点を遵守する必要があります。
1)時間外労働時間については、限度時間(1か月45時間、1年360時間)を超えない時間に限ること。
2)臨時的な特別の事情により限度時間を超えて労働させる必要がある場合であっても、時間外労働時間については、1年960時間を超えない範囲内とすること。
前回と今回で、タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示について説明しました。
乗務の形態によって、労働時間や拘束時間の上限が変わってきますので、令和6年4月までに改めて確認するようにしましょう。
関連するコラムはこちら
鈴与シンワート株式会社が提供する人事・給与・勤怠業務と財務・会計業務ソリューションはこちらからご覧ください。
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策