バス運転者の改善基準告示~その1
目次
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が、2024年4月から改正されます。改善基準告示は、タクシー・ハイヤー運転者、トラック運転者、バス運転者でそれぞれ定められています。
前回までに、タクシー・ハイヤー運転者とトラック運転者の改善基準告示を説明してきました。今回から、最後の「バス運転者」の改善基準告示についてポイントをみていきたいと思います。
バス運転者の改善基準告示の対象者について
改善基準告示の対象者は、労働者(同居の親族のみを使用する事業や事務所に使用される者、家事使用人は除きます。)であって、四輪以上の自動車の運転の業務に主として従事する方です。
具体的には、物品または人を運搬するために自動車を運転する時間が労働時間の半分を超えており、かつ当該業務に従事する時間が年間総労働時間の半分を超えることが見込まれる場合には、「自動車の運転の業務に主として従事する」ものとして取り扱われます。
また、改善基準告示は、自家用自動車の自動車運転者にも適用されます。改善基準告示は、運送を業とするか否かを問わず、自動車運転者を労働者として使用する全事業に適用される点については注意が必要です。
たとえば、旅館の送迎用のバスや、スクールバスの運転者等、事業用自動車以外の自家用自動車の運転者なども対象になります。
なお、旅客自動車運送事業や貨物自動車運送事業以外の事業に従事する自動車運転者であっても、主として人を運送することを目的とする自動車の運転の業務に従事する者(上記の自家用自動車の自動車運転者を含みます。)については、バス運転者に適用される基準が適用されることになります。
拘束時間と休息期間について
改善基準告示は、バス運転者の労働実態を考慮して、拘束時間、休息時間について基準を定めています。拘束時間と休息時間の定義は以下のように定められています。
・拘束時間
労働時間と休憩時間(仮眠時間を含みます。)の合計時間をいいます。始業時間から終業時間までのトータル時間になります。
・休息期間
使用者の拘束を受けない、勤務と次の勤務の間の時間のことをいいます。睡眠時間を含む労働者の生活時間として自由に使える時間となります。
1年・1か月、52週・4週平均1週の拘束時間について
バス運転者は、事業所の労務管理の実態等に応じ、「1年・1か月」「52週・4週平均1週」のいずれかの基準を選択することになります。
1)1年・1か月の拘束時間
「1年・1か月」の拘束時間を選択した場合は、原則として1年の拘束時間は3,300時間以内、かつ、1か月の拘束時間は281時間以内となります。
例外として、以下の業務に該当する場合(貸切バス等乗務者)は、労使協定により、1年のうち6か月までは、1年の総拘束時間が3,400時間を超えない範囲内において、1か月の拘束時間を294時間まで延長することができます。ただし、1か月の拘束時間が281時間を超える月は連続4か月までとする必要があります。
【貸切バス等乗務者】
①貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者
②乗合バスに乗務する者 (一時的な需要に応じて追加的に自動車の運行を行う営業所において運転の業務に従事する者に限る。)
③高速バスに乗務する者
④貸切バスに乗務する者
2)52週・4週平均1週の拘束時間
「52週・4週平均1週」の拘束時間を選択した場合は、原則として、52週間の拘束時間は3,300時間以内、かつ、4週間を平均した1週間当たり(4週平均1週)の拘束時間は65時間以内とする必要があります。
例外として、貸切バス等乗務者については、労使協定により、52週のうち24週までは、52週の総拘束時間が 3,400時間を超えない範囲内において、4週平均1週の拘束時間を68時間まで延長することができます。ただし、4週平均1週の拘束時間が65時間を超える週は連続16週までにする必要があります。
1日の拘束時間について
1日(始業時刻から起算して24時間を指します。)の拘束時間は13時間以内とすることが原則となります。延長する場合であっても、上限は15時間となります。
1日の拘束時間について13時間を超えて延長する場合は、14時間を超える回数をできるだけ少なくするよう努める必要があります。回数は1週について3回までが目安となり、この場合でも、14時間を超える日が連続することは望ましくありません。
1日の休息期間について
1日の休息期間は、勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、 継続9時間を下回ることはできません。
休息期間の取扱いについて、特に貸切バス運転者の場合、運行の中継地や目的地において休息期間を過ごすことがありますが、休息期間の配分においては、貸切バス運転者の疲労の蓄積を防ぐ観点から、当該者の住所地における休息期間が、それ以外の場所における休息期間よりも長く確保されるよう努める必要があります。
今回は、バス運転者の拘束時間や拘束時間の限度について説明しました。次回もバス運転者の改善基準のポイントについてみていきます。
関連するコラムはこちら
鈴与シンワート株式会社が提供する人事・給与・勤怠業務と財務・会計業務ソリューションはこちらからご覧ください。
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策