年収の壁の種類と103万円の壁
目次
連日、年収の壁の見直しについて報道が続いています。
多く報道されているのは「103万円の壁」と「130万円の壁」ですが、それ以外にも複数の壁が存在しています。
今後、どのように法改正されていくかはまだ不明ですが、現状のルールにおける年収の壁をおさらいします。
前回は、住民税における100万円(98万円)の壁について説明しました。今回は、「103万円の壁」についてみていきましょう。
103万円の壁
「103万円」は、所得税の支払いが発生する年収です。所得税は、課税給与所得金額に対して課税されます。
所得の計算方法は、次の通りです。
| 会社から支払われる給与等の総支給額(通勤費などの非課税所得は除く)- 給与所得控除額 - 所得控除額 = 課税給与所得金額 | 
なぜ、103万円がボーダーになっているかというと、上記の給与所得控除額等が関係しています。
給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出しますが、この給与所得控除額は給与等の収入金額に応じて決められています。
給与所得控除額は、給与収入1,619,000円未満の場合は、一律55万円となります。
次に、所得控除についてみていきます。所得控除の種類は、15種類あります。
所得控除は、所得税額を計算するうえで、社会政策上の要請によるもの、納税者の個人的事情への考慮や最低生活費を保障するためのものなど、税負担面での調整を行う趣旨から設けられています。
15種類の所得控除の中で、基礎控除というものがあります。本人の合計所得金額が2,400万円以下の場合の基礎控除額は、48万円となります。
給与所得控除額(55万円)+基礎控除(48万円)=103万円となるため、103万円以下の年収であれば所得税が課税されません。
たとえば、年収が110万円だった場合を見ていきます。計算がややこしくなってしまいますので、給与所得控除と基礎控除だけの場合で他の生命保険料控除や扶養控除などはないものとして計算します。
所得税率については、所得によって、5%から45%の間で変動します。年収が110万円であった場合の所得税率は5%となります。
課税給与所得金額: 110万円-103万円=7万円
7万円×5%(所得税率)×復興所得税(102.1%)=3,500円(百円未満切り捨て)
つまり、年収110万円だった場合の所得税額は3,500円となります。
「年収の壁」と騒がれていますが、年収103万円を超えるとすべての年収に課税されるのではありません。
103万円を超えた分に対して課税されるので、超えた金額以上に所得税が徴収されることはありません。
扶養控除について
上で説明した通り、年収103万円を超えてもすぐに本人の手取りが減るわけではありません。
しかし、103万円を超えると税務上の扶養親族になることができなくなります。
そのため、被扶養者の手取りには大きな影響は出なくても、扶養している側の扶養者の所得税額が増えてしまうことになります。
一般的な被扶養者の所得控除額は、38万円です。
大学生の年代に相当する特定扶養親族の場合の所得控除額は、63万円です。
被扶養者の年収が103万円を超えると、この所得控除額がまるっきりなくなるので、扶養者の所得税額が増えることになるのです。
そういった意味では、「103万円の壁」は存在すると言えるでしょう。
配偶者控除と配偶者特別控除について
扶養されている配偶者については、「103万円の壁」を超えても、いきなり扶養者の所得税が増えるというわけではありません。
配偶者を扶養にしている方は、要件を満たせば、配偶者控除もしくは配偶者特別控除を受けることができます。
配偶者控除と配偶者特別控除は、納税者本人の所得金額によって控除額が変わります。
今回は、納税者本人の所得が900万円以下として説明していきます。

納税者が配偶者控除を受けることができる年収要件は、配偶者の年収が103万円以下である必要があります。
配偶者控除は38万円の控除を受けることができます。
103万円を超えると控除対象配偶者ではなくなってしまいますが、例外が認められており(配偶者特別控除といいます。)、配偶者の所得に応じて一定金額の所得控除が受けられます。
「150万円と201万円」の壁は、配偶者特別控除に関する壁となります。
150万円の壁
150万円の壁は、配偶者特別控除を満額受けることができるラインとなります。
年収150万円までは、配偶者控除と同様の38万円の所得控除を受けることができます。
201万円の壁
配偶者特別控除は、年収150万円を超えると徐々に減額されていきます。
年収201万円を超えると、配偶者特別控除を受けることができなくなるため、201万円の壁と呼ばれています。
つまり、配偶者に限っては、年収103万円を超えても所得控除額がいきなりなくなるのではなく、「年収150万円までは年収103万円以下と同じ」「年収150万円から年収201万円までは段階的に減っていく」ということになります。
今回は、103万円、150万円、201万円の壁についてみていきました。壁を超えたからといってすぐに手取りが減るというわけではありません。極端な報道が若干みられることもあり、従業員からも問い合わせが増えているようですが、正しい知識をもって説明するようにしましょう。
次回は、社会保険の壁についてみていきます。
鈴与シンワート株式会社が提供する人事・給与・勤怠業務と財務・会計業務ソリューションはこちらからご覧ください。
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                                                    第148回出来高払制給与の割増賃金
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                                                    第147回令和7年度の最低賃金
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                                                    第146回特定親族特別控除と社会保険扶養家族の認定基準
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                                                    第145回フレックスタイム制の概要と時間外労働
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                                                    第144回兼業や副業の場合の割増賃金と今後の方向性
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                                                    第143回2025年度税制改正について
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                                                    第142回社会保険の報酬と月額変更
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                                                    第141回定額減税の残額の給付
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                                                    第140回社会保険における年収の壁
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                                                    第139回年収の壁の種類と103万円の壁
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                                                    第123回最低賃金の対象となる賃金
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                                                    第138回年収の壁の種類と100万円の壁~103万の壁、130万の壁以外にも「壁」がある~
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                                                    第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
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                                                    第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
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                                                    第135回健康保険証の廃止
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                                                    第134回育児介護休業の改正
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                                                    第133回労働時間の適正な管理方法
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                                                    第132回バス運転者の改善基準告示~その3
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                                                    第131回バス運転者の改善基準告示~その2
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                                                    第130回バス運転者の改善基準告示~その1
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                                                    第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
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                                                    第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
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                                                    第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
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                                                    第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
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                                                    第125回運送業における時間外労働の上限規制
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                                                    第124回建設業における時間外労働の上限規制
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                                                    第122回医業における時間外労働の上限規制
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                                                    第121回年次有給休暇と割増賃金
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                                                    第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
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                                                    第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
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                                                    第118回給与のデジタル通貨払い~その2
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                                                    第117回給与のデジタル通貨払い
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                                                    第116回障害者雇用率の引き上げ
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                                                    第115回健康経営について
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                                                    第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
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                                                    第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
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                                                    第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
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                                                    第111回男女の賃金の差異の情報公表
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                                                    第110回アルコールチェックの義務化
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                                                    第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
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                                                    第108回労働時間の判断基準
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                                                    第107回労働時間と休憩時間
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                                                    第106回夜勤シフトと休日の関係
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                                                    第105回有給休暇の買上げ
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                                                    第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
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                                                    第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
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                                                    第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
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                                                    第101回休憩時間のルール
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                                                    第100回労働者代表の選任
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                                                    第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
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                                                    第98回令和3年 育児休業法の改正について
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                                                    第97回過労死の労災認定基準
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                                                    第96回テレワーク時の労災~通勤災害
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                                                    第95回テレワーク時の労災~その1
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                                                    第94回70歳までの雇用延長~その2
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                                                    第93回70歳までの雇用延長~その1
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                                                    第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
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                                                    第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
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                                                    第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
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                                                    第89回最低賃金の引上げ
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                                                    第88回コロナ感染と通勤災害
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                                                    第87回コロナ感染と労災認定
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                                                    第86回パワハラ防止法~その8
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                                                    第85回パワハラ防止法~その7
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                                                    第84回パワハラ防止法~その6
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                                                    第83回パワハラ防止法~その5
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                                                    第82回パワハラ防止法~その4
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                                                    第81回パワハラ防止法~その3
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                                                    第80回パワハラ防止法~その2
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                                                    第79回パワハラ防止法~その1
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                                                    第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
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                                                    第77回労働者派遣法の改正~その2
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                                                    第76回労働者派遣法の改正~その1
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                                                    第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
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                                                    第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
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                                                    第73回新しい在留資格
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                                                    第72回有期労働契約の解除
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                                                    第71回働き方改革~新36協定の内容
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                                                    第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
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                                                    第69回働き方改革~同一労働同一賃金
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                                                    第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
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                                                    第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
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                                                    第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
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                                                    第65回働き方改革~その2
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                                                    第64回働き方改革~その1
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                                                    第63回安全衛生管理体制~その2
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                                                    第62回安全衛生管理体制~その1
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                                                    第61回会社が行う健康診断~その2
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                                                    第60回会社が行う健康診断~その1
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                                                    第59回就業規則のいろはのイ
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                                                    第58回労働契約の申込みみなし制度
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                                                    第57回改正労働者派遣法の2018年問題
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                                                    第56回いよいよ始動する無期転換ルール
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                                                    第55回働き方改革を実現するために(その4)
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                                                    第54回働き方改革を実現するために(その3)
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                                                    第53回働き方改革を実現するために(その2)
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                                                    第52回働き方改革を実現するために(その1)
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                                                    第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
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                                                    第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
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                                                    第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
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                                                    第48回テレワークの導入と労働法の考え方
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                                                    第47回管理職と管理監督者の違い
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                                                    第46回同一労働同一賃金の行方
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                                                    第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
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                                                    第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
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                                                    第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
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                                                    第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
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                                                    第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
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                                                    第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
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                                                    第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
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                                                    第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
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                                                    第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
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                                                    第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
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                                                    第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
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                                                    第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
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                                                    第33回通勤災害の対象となるケース
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                                                    第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
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                                                    第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
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                                                    第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
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                                                    第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
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                                                    第28回日本で働くことができる外国人
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                                                    第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
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                                                    第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
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                                                    第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
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                                                    第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
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                                                    第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
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                                                    第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
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                                                    第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
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                                                    第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
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                                                    第19回精神障害と労災認定
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                                                    第18回解雇は最終手段?
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                                                    第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
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                                                    第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
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                                                    第15回残業代を定額で支払うのは
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                                                    第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
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                                                    第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
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                                                    第12回賞与を支給すると逆効果??
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                                                    第11回インターン生であれば労働者ではないのか
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                                                    第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
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                                                    第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
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                                                    第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策

 
                 
                 
          
        






 
             
                                 
        