社会保険における年収の壁
目次
年収の壁の見直しについて、国会では引き続きさまざまな意見が出ているようです。
前回は、所得税における「年収の壁の種類と103万円の壁」について説明しました。今回は、社会保険の「130万円の壁」と「106万円の壁」についてみていきます。
130万円の壁について
原則として、パートタイマー・アルバイトでも、会社に常用的に使用されているのであれば社会保険の被保険者となります。しかし、時間や日数が少ない(受け取る給与額が少ない)方を被保険者とするのは、扶養家族の概念をなくすことにもつながります。
そのため、一定の基準以下で働く方については、自ら社会保険に加入することができません。
具体的な基準は、「1週間の所定労働時間」と「1か月の所定労働日数」が、同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上であるか否かです。
つまり、正社員と比べて労働日数と労働時間の両方が4分の3以上の非正規社員は被保険者として社会保険に加入し、それ未満の場合は加入しないことになります。
社会保険の被扶養者になる要件は、日本国内に住所があり、被保険者により主として生計を維持されていること、および次の1)と2)の両方に該当した場合です。
1)収入要件
収入要件は、年間収入が原則として130万円未満である必要があります。例外として、60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満となります。原則の収入要件が130万円未満であるため、「130万円の壁」と呼ばれています。
年間収入に加えて、同居の場合は、収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満であること、別居の場合は、収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満であることが求められます。
たとえば、扶養者の月収が30万円だった場合は、扶養者の月収は15万円未満であることが条件になります。
年間収入の考え方は、過去の収入のことではなく、被扶養者に該当する時点および認定された日以降の年間の見込み収入額のことをいいます。月額に換算した収入の目安は、月額108,333円以下になります。
被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれますので、注意が必要です。
2)被扶養者の範囲
次に、被扶養者の範囲についてみていきます。当然ですが、扶養になることができる範囲は定められています。その範囲の中でも、「被保険者との同居が必要ない者」と「被保険者との同居が条件になる者」の2種類があります。
ア.被保険者と同居している必要がない者 ・配偶者 ・子、孫および兄弟姉妹 ・父母、祖父母などの直系尊属 イ.被保険者と同居していることが必要な者 ・上記ア以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など) ・内縁関係の配偶者の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む) |
106万円の壁について
原則として年収130万円未満であれば、社会保険の扶養になることができます。ただし、一定規模以上の企業等では、社会保険の加入義務が拡大されています。具体的な要件については、以下の通りとなります。
1)従業員数51人以上の企業であること 2)週の所定労働時間が20時間以上あること 3)2か月を超える雇用の見込みがあること 4)賃金の月額が88千円以上であること 5)学生でないこと |
この中にある「賃金の月額が88,000円以上であること」という要件により、
88,000円(月額)×12ヶ月=1,056,000円 となるため、「106万円の壁」といわれています。
なお、従業員数の要件は、現在51人以上の規模の企業とされていますが、2027年10月以降に段階的に引き上げされる予定となっています。2025年1月30日現在の報道では、
・2027年10月 36人以上
・2029年10月 21人以上
・2032年10月 11人以上
・2035年10月 企業規模要件を撤廃
という案が提示されています。
また、同様に年収要件についても、削除する案が提示されています。 今後の議論の行方によっては、企業規模要件や年収要件が変わることも十分考えられるので、注視していく必要があります。
今回は、「106万円の壁」と「130万円の壁」についてみてきました。
パート・アルバイトなどの短時間労働者の社会保険加入については、厚生労働省は段階的に拡大していきたい方針のようです。パート・アルバイトを雇用している企業は、従業員の方からの問い合わせが増えていくものと考えられるので、最新の情報を常に持っておくことが重要になります。
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第140回社会保険における年収の壁
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第139回年収の壁の種類と103万円の壁
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第138回年収の壁の種類と100万円の壁~103万の壁、130万の壁以外にも「壁」がある~
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