川島孝一
第142回  投稿:2025.04.03 / 最終更新:2025.04.02

社会保険の報酬と月額変更

鈴与シンワートが提供する管理部門の業務ソリューション

年金事務所の調査などで月額変更の届出漏れを指摘されるケースがよくあるようです。

今回は、社会保険における報酬の考え方と随時改定(月額変更)についてみていきたいと思います。

報酬について

社会保険の標準報酬月額の対象となる報酬は、次のいずれかを満たすものです。

1.被保険者が自己の労働の対償として受けるものであること
2.事業所から経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計にあてられるもの

これだけでは判断しにくいと思いますので、具体例をあげていきたいと思います。


報酬の対象となるもの

基本給、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、休日出勤手当、歩合給、継続支給する見舞金など

なお、年4回以上支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれるという点には注意が必要です。

次に対象にならない報酬には、以下のようなものがあります。


報酬の対象とならないもの

退職手当、恩恵的に支給する見舞金、株主配当金、出張旅費、出張手当

年3回以下の支給にとどまる賞与については、報酬には含まれませんが、標準賞与額の対象となります。

固定的給与と非固定的給与

固定的給与とは、稼働や能率に関係がなく支給額・支給率が決まっているもので、具体的には基本給、通勤手当、家族手当、住宅手当、役職手当、勤務地手当などがあげられます。

日給、時給の場合は毎月の支給額が変動しますが、その日給単価や時給単価を固定的給与と考えます。

同様に通勤手当を実費(日額×出勤日数)で支給する場合は、日額単価を固定的給与と考えます。

一方、非固定的給与とは、稼働実績などで支給されるもので、具体的には、残業手当、皆勤手当、能率手当、日直手当、歩合給などがあげられます。

これらの非固定的給与の金額の変動は、随時改定の対象にはなりません。

随時改定が行われるのは、固定的給与の変動(昇給・降給、手当の増減、給与体系の変更、基礎単価)の変更があった場合に限られます。

随時改定とは?

毎年1回の定時決定により決定された標準報酬月額は、原則として1年間使用されます。しかし、その間に給与改定が行われて給与額に大幅な変更があると、実態とかけ離れた保険料になってしまいます。

そこで、給与額と標準報酬月額が乖離しないように、一定の要件に該当した場合については、定時決定とは別に標準報酬月額を改定することになっています。

この業務を「随時改定」、届出を「月額変更届」と言いますが、業務自体のことは略して「月変」と呼ぶことが一般的です。

随時改定を行うケース

随時改定を行う場合とは、次にあげた3項目のすべてに該当したときです。

1.固定的給与が変更になったこと
2.変動月から連続3か月間の支払基礎日数が17日以上であること
3.上記3か月間の給与の平均額と標準報酬月額に2等級以上の差があること

上記の3項目すべてに該当し、随時改定を行う場合は、固定的変更の変更があった月(起算月)から4か月目に月額変更届を提出し、その月から標準報酬月額が変更になります。給与計算では、社会保険料を当月徴収にしている場合はその月(4か月目目)に支給する給与から、翌月徴収になっている会社では5か月目に支給する給与で徴収する保険料から変更になります。

随時改定を行う場合、固定的な給与が変動していることが条件になっています。そのため、多忙により残業代だけが増えて、その他の給与が変動していない場合、随時改定を行う必要はありません。この場合は、年に1回行われる定時決定で標準報酬月額を決めることになります。

定期昇給など社員全員を一斉に昇給させる際は、月額変更の提出を忘れることは少ないようです。しかし、手当の支給額の変更などイレギュラーな変更があった場合には、月額変更の提出漏れが起きやすいようです。

年金事務所の調査などで提出漏れが指摘されるケースは、次のような場合です。

・転居などによる通勤手当の変更時の手続き漏れ
・家族の増減による家族手当の変更など、手当額変更時の手続き漏れ
・手当の支給漏れが発覚して、遡及支給した場合の起算月の誤り

 (手当の遡及支給の場合の起算月は、本来変更になるべき月が起算月になります)
・基本給は当月支給、残業代は翌月清算している場合の手続き漏れ
 (この場合の起算月は、基本給が変更になった月と残業代の単価が変更になる翌月の2回になります)
・残業代の対象外となる管理職になった場合などの手続き漏れ
 (基本給などの変更による月額変更と、残業代の対象とならなくなった賃金体系の変更による月額変更の両方が対象になります)

など

定時決定について

社会保険に加入している被保険者の実際の報酬と標準報酬月額との間に大きな差が生じないように、事業主は、7月1日現在で使用している全被保険者の3ヶ月間(4月~6月)の報酬月額を算定基礎届に記載をして届出を行います。

この届出内容に基づき厚生労働大臣は毎年1回、標準報酬月額を決定し直します。この一連の手続きを定時決定といいます。

実務的には、算定基礎届を提出するので「算定」と呼ばれています。新しく決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの各月に適用されます。

毎月の給与が変動した場合に、その手当等が固定的な賃金に該当するのか、それとも非固定的賃金なのかを正しく判断する必要があります。さらに、固定的賃金の変更と月額変更の手続きには3ヶ月のタイムラグがあるため、忘れすに手続きを行わなければなりません。

判断を誤ったり、手続きに漏れがあり、年金事務所の調査などで発覚すると、社会保険料を遡及して負担する必要があります。会社のみならず、従業員本人にも迷惑をかけることになりますので、十分注意しましょう。


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