特定親族特別控除と社会保険扶養家族の認定基準
目次
2025年度の税制改正で、「特定親族特別控除」が新設されました。それに合わせて、社会保険の被扶養者に係る認定基準も、2025年10月1日から一部変更されることになりました。
今回は、特定親族特別控除と、社会保険における被扶養者の認定基準についてみていきます。
特定親族特別控除の新設について
大学生年代の子を持つ親に対して、特定親族特別控除が創設されました。特定親族とは、居住者と生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人、白色事業専従者は除きます。)で合計所得金額が58万円超123万円以下の人をいいます。
親族には児童福祉法の規定により養育を委託された、いわゆる里子も含まれます。
これまでも、特定扶養控除はありましたが、扶養親族の収入が年間で103万円を超えてしまうと控除がなくなってしまうため、扶養親族は103万円を超えないように調整して働くケースが見られました。
今回創設された特定親族特別控除では、特定親族の年収によって段階的に控除額が決定される仕組みになりました。
具体的な金額は以下の通りです。控除額は所得金額で判断しますが、特定親族がアルバイトなどの給与収入だけの場合の年収額を下段に記載します。
特定親族の合計所得金額 | 特定親族特別控除額 |
58万円超 85万円以下(所得金額)123万円超150万円以下(給与収入額) | 63万円 |
85万円超 90万円以下(所得金額)150万円超155万円以下(給与収入額) | 61万円 |
90万円超 95万円以下(所得金額)155万円超160万円以下(給与収入額) | 51万円 |
95万円超100万円以下(所得金額)160万円超165万円以下(給与収入額) | 41万円 |
100万円超105万円以下(所得金額)165万円超170万円以下(給与収入額) | 31万円 |
105万円超110万円以下(所得金額)170万円超175万円以下(給与収入額) | 21万円 |
110万円超115万円以下(所得金額)175万円超180万円以下(給与収入額) | 11万円 |
115万円超120万円以下(所得金額)180万円超185万円以下(給与収入額) | 6万円 |
120万円超123万円以下(所得金額)185万円超188万円以下(給与収入額) | 3万円 |
表を見ていただくと分かるとおり、特定親族の収入が年間150万円以下であれば、特定扶養親族に該当した場合と同様に63万円の控除を受けることができます。
さらに年収が150万円を超えても、特定親族の収入が年間188万円以下であれば、特定親族特別控除を受けることができるようになりました。
社会保険における被扶養者について
社会保険において、被扶養者になるためには、被扶養者の範囲と収入の基準に該当する必要があります。それぞれについてみていきます。
社会保険における被扶養者の範囲
被扶養者の範囲は、下の①もしくは②に該当する方になります。
① 被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人(これらの方は、必ずしも同居している必要はありません。)
② 被保険者と同一の世帯(同居して家計を共にしている状態のことです。)で主として被保険者の収入により生計を維持されている次の人
1)被保険者の三親等以内の親族(①に該当する人を除く)
2)被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
3)2)の配偶者が亡くなった後における父母および子
収入の基準
被扶養者として認定されるには、主として被保険者の収入により生計を維持されていることが必要になります。
認定については、以下の基準により判断されることになっています。ただし、以下の基準により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れており、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合には、その具体的事情に照らし保険者が最も妥当と認められる認定を行うことになっています。
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属している場合】
原則として、認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満である場合は被扶養者となります。
例外として、認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者の年間収入を上回らない場合には、その世帯の生計の状況を果たしていると認められるときは、被扶養者として認定されることもあります。
【認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合】
認定対象者の年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合には、被扶養者となります。
19歳以上23歳未満の被扶養者に係る認定について
税制改正で特定親族特別控除が新設されたことによって、2025年10月1日から、配偶者を除く19歳以上23歳未満の収入の基準が130万円未満から150万円未満まで引き上げられることになりました。
19歳以上23歳未満の年齢の判定については、所得税法上の取扱いと同様に、その年の12月31日現在で行います。たとえば、2025年10月に19歳になる場合には、2025年における年間収入要件は150 万円未満となります。
反対に、2026年12月に23歳になる場合は、2026年における年間収入要件は原則の130万円未満が適用されますので注意しましょう。
注意したいのは、学生に限られているわけではなく、あくまでも年齢で判断するという点です。また、民法上誕生日の前日に年齢が加算されるため、1月1日生まれの場合は、前日の12月31日に年齢が増える点も気を付けてください。
今回は、税制上の特定親族特別控除と、その創設に伴い変更される社会保険の被扶養者に係る認定基準について説明しました。
大学生アルバイトの方を雇用している企業などは、問い合わせが増えると考えられます。
社会保険の扶養家族の認定に際しては、23歳になる年は、その年の1月1日より原則の130万円未満に引き下げられ、収入によっては扶養家族から外す必要が出てくるケースが起こります。手続き漏れが起きないように注意しましょう。
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