令和7年度の最低賃金
中央最低賃金審議会で、令和7年度の地域別最低賃金額改定の目安についての答申が取りまとめられました。最低賃金は、この答申を受けて開催される都道府県ごとの地方最低賃金審議会が答申した金額により、都道府県ごとの労働局が金額と発効日を最終決定します。
今回は、令和7年度の最低賃金についてみていきます。
令和7年度の中央最低賃金審議会の答申のポイント
令和7年度の中央最低賃金審議会答申のポイントは、次の3点です。
① 各都道府県の引上げ額の目安については、Aランク63円、Bランク63円、Cランク64円。都道府県の経済実態に応じ、全都道府県をABCの3ランクに分けて、引上げ額の目安を提示している。現在、Aランクで6都府県、Bランクで28道府県、Cランクで13県となっている。
ランク | 都道府県 | 金額 |
A | 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 | 63円 |
B | 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井 山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山 島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 | 63円 |
C | 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分 宮崎、鹿児島、沖縄 | 64円 |
② 改定額の全国加重平均額は1,118円
③ 全国加重平均額63円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
最低賃金の概要と種類
最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が定めた「労働者に対して支払う賃金の最低限度の金額」のことをいいます。最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があります。
地域別最低賃金は、産業や職種に関係なく都道府県内で働くすべての労働者に対して適用される最低賃金です。一方で、特定(産業別)最低賃金は、特定地域内の、特定の産業の基幹的社員に対して適用されます。

なお、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が同時に適用される場合には、高い方の最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。
また、最低賃金が異なる地域をまたいで派遣される派遣社員の場合は、派遣先の事業所所在地の最低賃金が適用されます。
最低賃金の対象となる賃金
最低賃金の対象となる賃金は、実際に毎月支払われる賃金から以下の6種類を除いた金額が対象になります。
① 臨時に支払われる賃金(結婚手当など) ② 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) ③ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など) ④ 所定労働日以外の日に対して支払われる賃金(休日割増賃金など) ⑤ 午後10時から午前5時までの間に対して支払われる割増賃金(深夜割増賃金など) ⑥ 精・皆勤手当、通勤手当、家族手当等 |
昨今では、固定残業制度を導入している会社も多く存在します。固定残業制度を導入している場合、給与は基本給部分と固定残業部分に分かれています。固定残業部分は、③の所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金に該当するため、最低賃金の対象となるのは、「給与から固定残業部分を控除した金額」です。
基本給の中に固定残業代を含めて支給している会社の場合は、按分して最低賃金の対象となる「基本給のうち、所定労働時間に対して支払っている金額」を算出する必要があります。
最低賃金以上の支払いを行っているかどうかの確認方法
最低賃金は時間によって定められています。また、最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金から、対象外とされている一部の賃金を控除したものになります。
支払われる賃金が最低賃金以上となっているかどうかをチェックするには、最低賃金の対象となる賃金額と定められている最低賃金を比較することになります。支払っている賃金の形態(月給、時間給、日給等)でチェック方法が変わってきます。
チェック方法を表にまとめましたので、確認してみてください。
賃金体系 | チェック方法 |
①時間給制 | 時間給≧最低賃金額 |
②日給制 | 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額 |
③月給制 | 月給÷1ヶ月の所定労働時間≧最低賃金額 |
④出来高払い制 その他の請負制によって定められた賃金 | 出来高払い制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払い制その他の請負制によって労働した総労働時間で除して時間当たりの金額に換算して最低賃金額と比較する。 |
最低賃金が上昇することによる影響
最低賃金が上昇することによって、自社内の低賃金層だけでなく、少し上の中間層にも影響が出てくるケースもあります。
例えば、新卒の初任給を最低賃金で設定している会社の場合をみていきます。所定労働時間は173時間とし、目安通り東京の最低賃金が63円引き上げられたものとします。
令和7年4月入社に入社した新卒の給与は、1,163円×173時間=201,199円となります。
一方で、令和8年4月に入社した新卒の給与は、1,226円×173時間=212,098円で設定することになります。(差額は10,899円/月)
このケースでは、令和7年4月入社の新卒は、今回の最低賃金の改正により、発効日以降は定期昇給とは関係なく、212,098円の給与に引き上げる必要が出てきます。
この考え方によると、令和6年4月入社の新卒は、昨年の最低賃金の発効日から給与は201,199円に引き上げられており、さらに令和7年4月の定期昇給で昇給させないと、令和7年4月入社の新卒と同額になってしまうため、昇給して差をつけようと考えるのが一般的です。
仮に1万円昇給させていた場合、現在の給与額は、
・令和6年新卒 211,199円
・令和7年新卒 201,199円
となっていますので、令和7年度の最低賃金の発効日以後は、いずれも最低賃金を下回ってしまいます。令和6年新卒と令和7年新卒の給与を同額というわけにはいかないので、さあどうしましょう・・・・・・・。
最低賃金をクリアしているかどうかのチェックはもちろん重要なことですが、中間層を含めた社内の給与バランスも整えていく必要がありそうです。
今回は、令和7年度の最低賃金の引上げについてみてきました。冒頭にも触れた通り、中央最低賃金審議会での答申は、あくまでも目安の段階です。
最低賃金は、中央最低賃金審議会の目安の答申を受けて、各都道府県の地方最低賃金審議会が議論し、答申した金額に基づき、異議申出の公示などの諸手続きを経てから、各都道府県労働局が金額と発効日を最終決定します。
地方最低賃金審議会の答申は、8月中にすべての都道府県で出揃う予定です。通常ですと、地方最低賃金審議会の答申から金額等が変更になることはありません。
今回の引上げ額は、過去最高となる見込みです。事業所所在地の地方最低賃金審議会の答申に注視し、すみやかに対応できるように準備しておきましょう。
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