出来高払制給与の割増賃金
目次
たまに、「出来高払制で給与を支払っている場合は、残業代を支払わなくて良い」と考えている方がいるようです。法律上は、出来高払制であったとしても、法定労働時間を超えて労働した場合は割増賃金の支払い義務が生じます。
今回は、出来高払制給与の割増賃金のルールについてみていきます。

労働時間の定義について
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。そのため、使用者の明示的な指示がなくても、黙示的な指示により従業員が業務を行う時間は労働時間になります。
労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的にみて従業員の行為が使用者から義務付けられているかにより判断されます。
どのような場合が労働時間に該当するかというと、実際に仕事をしている時間だけでなく、使用者の指揮命令下に入っている時間はすべて労働時間となります。
したがって、以下のようなケースでは、該当の時間は労働時間と考えられます。
・就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)をする時間 ・業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間 ・使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間 ・参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間 |
労働時間の原則について
次に労働時間の原則についてみていきます。
労働基準法では1日(8時間)および 1週の労働時間(40時間)ならびに休日日数(毎週少なくとも1回)を定めています。原則は、この時間数や日数を超えて従業員を労働させてはならないというルールになります。
ただし、現実的に繁忙期等で労働時間が伸びてしまうこともあるということで、時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36 協定」)を締結して労働基準監督署長に届け出れば、この法定労働時間を超える時間外労働や法定休日における休日労働が認められます。36協定は、労働基準監督署に届け出ないと効力が発生しない点には注意しましょう。
割増賃金の計算方法について
割増賃金の計算の基礎に含めなくてもよい手当は、以下の賃金のみとなります。
① | 家族手当 |
② | 通勤手当 |
③ | 住宅手当 |
④ | 別居手当 |
⑤ | 子女教育手当 |
⑥ | 臨時に支払われた賃金 |
⑦ | 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
これらの手当は労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されている賃金であることから、割増賃金の計算の基礎から除外されています。なお、家族手当・通勤手当・住宅手当であっても、各個人の状況に応じて支給されておらず一律に支給されている場合などは、割増賃金の計算から除外することはできません。
ここに挙げた賃金以外は、割増賃金の計算の基礎に含める必要があります。
そのため、出来高払制で支払った歩合給やインセンティブについては、割増賃金の計算に算入することになります。
出来高払制における割増賃金の計算方法は、通常の場合と異なります。
1時間当たりの時間給を計算する際は、基本給や手当などの固定給については、「所定労働時間」で除して計算を行います。
しかし、歩合給やインセンティブについては、「総労働時間」で除して計算をする違いがあります。
割増賃金率について
法定時間外労働に対して、事業主は割増賃金を支払う必要があります。割増賃金率については以下のように定められています。
・時間外労働・・・2割5分以上(1ヶ月について60時間を超える場合は5割以上) ・休日労働・・・・3割5分以上 ・法定労働時間内の深夜労働・・・2割5分以上 ・時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上 (1ヶ月について60時間を超える場合は7割5分以上) ・休日労働が深夜に及んだ場合・・・6割以上 |
出来高払制の割増賃金について
出来高払制とは「歩合給制」「請負給制」ともいい、「売上げに対して〇%」や「契約成立1件に対して○円」といった一定の成果に対して定められた金額を支払う賃金制度のことです。
出来高払制であっても、法定労働時間を超えて労働した場合は、割増賃金の計算が必要になります。
この場合、出来高払制に該当しない部分と出来高払制に該当する部分にわけて計算をします。
具体例に沿って計算をしていきたいと思います。計算をするにあたり、以下の条件設定をします。
・基本給 :160,000円 | ・所定労働時間:160時間 |
・歩合給 :200,000円 | ・総労働時間 :200時間 |
・合計 :360,000円 | ・残業時間 :40時間 |
【出来高払制に該当しない部分の計算】
基本給 : 160,000円÷160時間(所定労働時間)×1.25×40時間=50,000円
【出来高払いに該当する部分の計算】
歩合給 : 200,000円÷200時間(総労働時間)×0.25×40時間=10,000円
割増賃金の合計金額:60,000円
今回のケースだと、基本給と歩合給の合計金額である360,000円に60,000円を加えた420,000円を支給する必要があります。
なお、歩合給部分の割増賃金の計算においては、割増率を1.25ではなく0.25で計算をすることになります。これは、出来高払制は、すべての労働時間の労働に対して賃金が決定されており、割増部分以外は歩合給ですでに支払っているという考え方のためです。
今回は、出来高払制の割増賃金のルールについてみてきました。出来高払制を導入している職務がある会社は、正しく計算ができているかどうか念のため確認してみましょう。
鈴与シンワートでは従業員規模や機能性によって選べる人事・給与・就業・会計システム、自社オリジナルの「人事・給与業務アウトソーシングサービス」、クラウドサービスの「電子給与明細」「電子年末調整」、奉行クラウドと基幹システムの自動連携などを提供しています。
個社特有の課題やご要望にお応えいたしますので、是非お気軽にお問い合わせください。
-
第148回出来高払制給与の割増賃金
-
第147回令和7年度の最低賃金
-
第146回特定親族特別控除と社会保険扶養家族の認定基準
-
第145回フレックスタイム制の概要と時間外労働
-
第144回兼業や副業の場合の割増賃金と今後の方向性
-
第143回2025年度税制改正について
-
第142回社会保険の報酬と月額変更
-
第141回定額減税の残額の給付
-
第140回社会保険における年収の壁
-
第139回年収の壁の種類と103万円の壁
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第138回年収の壁の種類と100万円の壁~103万の壁、130万の壁以外にも「壁」がある~
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策