川島孝一
第148回  投稿:2025.10.16 / 最終更新:2025.10.15

出来高払制給与の割増賃金

たまに、「出来高払制で給与を支払っている場合は、残業代を支払わなくて良い」と考えている方がいるようです。法律上は、出来高払制であったとしても、法定労働時間を超えて労働した場合は割増賃金の支払い義務が生じます。

今回は、出来高払制給与の割増賃金のルールについてみていきます。

サービス誘導バナー:人事・総務部門が抱える課題を解決
鈴与シンワートの「人事給与アウトソーシング」

労働時間の定義について

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。そのため、使用者の明示的な指示がなくても、黙示的な指示により従業員が業務を行う時間は労働時間になります。

労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的にみて従業員の行為が使用者から義務付けられているかにより判断されます。

どのような場合が労働時間に該当するかというと、実際に仕事をしている時間だけでなく、使用者の指揮命令下に入っている時間はすべて労働時間となります。

したがって、以下のようなケースでは、該当の時間は労働時間と考えられます。


・就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)をする時間

・業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間


・使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間


・参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間


労働時間の原則について

次に労働時間の原則についてみていきます。

労働基準法では1日(8時間)および 1週の労働時間(40時間)ならびに休日日数(毎週少なくとも1回)を定めています。原則は、この時間数や日数を超えて従業員を労働させてはならないというルールになります。

ただし、現実的に繁忙期等で労働時間が伸びてしまうこともあるということで、時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36 協定」)を締結して労働基準監督署長に届け出れば、この法定労働時間を超える時間外労働や法定休日における休日労働が認められます。36協定は、労働基準監督署に届け出ないと効力が発生しない点には注意しましょう。

割増賃金の計算方法について

割増賃金の計算の基礎に含めなくてもよい手当は、以下の賃金のみとなります。

家族手当
通勤手当
住宅手当
別居手当
子女教育手当
臨時に支払われた賃金
1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらの手当は労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて支給されている賃金であることから、割増賃金の計算の基礎から除外されています。なお、家族手当・通勤手当・住宅手当であっても、各個人の状況に応じて支給されておらず一律に支給されている場合などは、割増賃金の計算から除外することはできません。

ここに挙げた賃金以外は、割増賃金の計算の基礎に含める必要があります。

そのため、出来高払制で支払った歩合給やインセンティブについては、割増賃金の計算に算入することになります。

出来高払制における割増賃金の計算方法は、通常の場合と異なります。

1時間当たりの時間給を計算する際は、基本給や手当などの固定給については、「所定労働時間」で除して計算を行います。

しかし、歩合給やインセンティブについては、「総労働時間」で除して計算をする違いがあります。

割増賃金率について

法定時間外労働に対して、事業主は割増賃金を支払う必要があります。割増賃金率については以下のように定められています。


・時間外労働・・・2割5分以上(1ヶ月について60時間を超える場合は5割以上)
・休日労働・・・・3割5分以上
・法定労働時間内の深夜労働・・・2割5分以上
・時間外労働が深夜に及んだ場合・・・5割以上
 (1ヶ月について60時間を超える場合は7割5分以上)
・休日労働が深夜に及んだ場合・・・6割以上

出来高払制の割増賃金について

出来高払制とは「歩合給制」「請負給制」ともいい、「売上げに対して〇%」や「契約成立1件に対して○円」といった一定の成果に対して定められた金額を支払う賃金制度のことです。

出来高払制であっても、法定労働時間を超えて労働した場合は、割増賃金の計算が必要になります。
この場合、出来高払制に該当しない部分と出来高払制に該当する部分にわけて計算をします。

具体例に沿って計算をしていきたいと思います。計算をするにあたり、以下の条件設定をします。

具体例の条件:
・基本給 :160,000円 ・所定労働時間:160時間
・歩合給 :200,000円・総労働時間 :200時間
・合計  :360,000円・残業時間  :40時間

【出来高払制に該当しない部分の計算】
  基本給 : 160,000円÷160時間(所定労働時間)×1.25×40時間=50,000円

【出来高払いに該当する部分の計算】
  歩合給 : 200,000円÷200時間(総労働時間)×0.25×40時間=10,000円

割増賃金の合計金額:60,000円

今回のケースだと、基本給と歩合給の合計金額である360,000円に60,000円を加えた420,000円を支給する必要があります。

なお、歩合給部分の割増賃金の計算においては、割増率を1.25ではなく0.25で計算をすることになります。これは、出来高払制は、すべての労働時間の労働に対して賃金が決定されており、割増部分以外は歩合給ですでに支払っているという考え方のためです。

今回は、出来高払制の割増賃金のルールについてみてきました。出来高払制を導入している職務がある会社は、正しく計算ができているかどうか念のため確認してみましょう。

合わせて読みたい解説「兼業や副業の場合の割増賃金と今後の方向性」誘導バナー

鈴与シンワートでは従業員規模や機能性によって選べる人事・給与・就業・会計システム、自社オリジナルの「人事・給与業務アウトソーシングサービス」、クラウドサービスの「電子給与明細」「電子年末調整」、奉行クラウドと基幹システムの自動連携などを提供しています。

個社特有の課題やご要望にお応えいたしますので、是非お気軽にお問い合わせください。

著者のコラム一覧
あさレポ
ここレポ
S-port
物流コンサルティング
あさレポ
ここレポ
S-port
物流コンサルティング
800社以上の導入実績

3,700社以上の導入実績

弊社コンサルタントによる説明・お見積り依頼など、お気軽にご連絡ください。

PDF資料ダウンロード

詳しい資料のダウンロードはこちらから

3,700社以上の導入実績

3,700社以上の導入実績

弊社コンサルタントによる説明・お見積り依頼などお気軽にご連絡ください。

PDF資料ダウンロード

詳しい資料のダウンロードはこちらから