会社が行う健康診断~その1
目次
平成30年4月から、労働安全衛生法による「定期健康診断」等の診断項目の取り扱いが一部変更になりました。働き方改革が叫ばれていますが、従業員が一所懸命に仕事をし、その結果として体を壊してしまっては、本人も、そして会社にとっても不幸なことです。
一般的にはあまり重要視されていないようですが、健康診断は経営を行っていくうえで大切なものといえます。
労働安全衛生法では、定期健康診断のほかにもさまざまな健康診断を定めています。今回は、会社が実施すべき健康診断について説明していきたいと思います。
<健康診断の種類>
会社は、労働安全衛生法に基づき、従業員に対して、医師による健康診断を実施する義務があります。また、従業員も会社が行う健康診断を受診しなければなりません。
会社に実施することを義務付けている健康診断には、以下のものがあります。
健康診断の種類 | 対象となる労働者 |
実施時期 |
1.雇入時の健康診断 | 常時使用する労働者 |
雇入れの際 |
2.定期健康診断 | 常時使用する労働者 (次項の特定業務従事者を除く) |
1年以内ごとに1回 |
3.特定業務従事者の 健康診断 |
労働安全衛生規則第13条第1項2項に常時従事する労働者 | 左記業務への配置換えの際、6ヶ月以内ごとに1回 |
4.海外派遣労働者の 健康診断 |
海外に6ヶ月以上派遣する労働者 | 海外に6ヶ月以上派遣する際、帰国後国内業務に就かせる際 |
5.給食従業員の検便 | 事業に付属する食堂、または炊事場における給食の業務に従事する労働者 | 雇入れの際 配置換えの際 |
雇入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断の対象となるのは常時使用する労働者です。「常時使用する労働者」ですので、正社員以外の労働者でも次の2つの要件を満たす従業員の方は、健康診断の対象になります。
1)労働契約が期間の定めのない者(期間の定めがある労働契約により使用される者のうち、1年(特定業務従事者の場合については6ヶ月)以上使用されることが予定されている者を含む。)
2)その者の1週間の労働時間数が、その事業場の同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上である者。なお、4分の3未満であっても概ね2分の1以上である者については健康診断を行うことが望ましい。
<1.雇入れ時の健康診断>
事業者は、常時使用する従業員を雇い入れる際は、その従業員に対して、医師による健康診断を行わなければなりません。
検査する項目は次の11項目です。これまでと項目は変わりませんが、平成30年4月から8)9)10)の3つの項目の取り扱いが変更になりました。
内容が医療に関することであり、健康診断を実施する医師が注意すれば良い内容なので、ここでは詳しくは触れませんが、簡単にいうとそれぞれの検査方法が一部変更になりました。
1)既往歴及び業務歴の調査
2)自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3)身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
4)胸部エックス線検査及び喀痰検査
5)血圧の測定
6)貧血検査(血色素量及び赤血球数)
7)肝機能検査(GOT、GPT、γ‐GTP)
8)血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9)血糖検査
10)尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11)心電図検査
雇入れ時の健康診断については、原則として検査項目の省略は認められていません。ただし、新たに雇い入れた従業員の方が、医師による健康診断を受けた後、3ヶ月を経過していない場合で、健康診断の結果を証明する書類を事業主に提出した場合は、その項目については健康診断を行わなくても良いとされています。
<2.定期健康診断>
事業者は、常時使用する労働者に対して、1年以内ごとに1回定期的に医師による健康診断を行わなければなりません。検査項目については、雇入れ時の健康診断と同様の内容です。
ただし、医師が必要でないと認めた血液検査等の一部検査については省略することができます。今回の留意事項として、この「検査項目の省略」の判断を会社全体で一律に判断していたケースなどがあったことから、「医師」が「個々の労働者ごと」に「その検査項目を省略できると判断した」場合に限り、省略して良いことが改めて通知されました。
間違っても会社から全員の検査の省略をお願いすることのないようにしたいものです。
<健康診断時の給与の負担>
経営者や人事担当者から、「定期健康診断をしている時間も給与を支払わなければならないのか?」といった質問を受けることがあります。
これらの内容については、昭和47年9月18日に通達が出されています。内容は以下のとおりです。
「一般健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、一般健康診断は一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり業務遂行との関連において行われるべきものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営に必要不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」
この通達を簡単に説明すると、定期健康診断の時間に対しては、必ず賃金を支払わなければならないのではなく、「労使で協議をして」決定をすれば良いということになります。
今回は、「雇入れ時の健康診断」と「定期健康診断」についてみてきました。次回は、「特定業務従事者の健康診断」と「海外派遣労働者の健康診断」について説明したいと思います。
-
第138回年収の壁の種類と100万円の壁~103万の壁、130万の壁以外にも「壁」がある~
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策