安全衛生管理体制~その1
目次
労働安全衛生法とは、読んで字のごとく労働者の「安全」と「衛生」についての基準を定めた法律です。前回までに紹介をした健康診断の実施や、労働者に危険・有害な物質の取り扱いをさせる場合のルール等についても規定されています。
あまりなじみのない法律ですが、労働基準法とセットになって労働者を守る目的で作られた法律です。たとえば、50人以上の労働者がいる事業所が選任しなければならない「衛生管理者」や「産業医」も、この労働安全衛生法により義務づけられています。
労働基準監督署の調査などでは、労働安全衛生法に定められている項目がしっかりと守られていなかった場合は、是正指導の対象になります。
今回は、労働安全衛生法の「安全衛生管理体制」のうち、「衛生管理者」と「産業医」についてみていきたいと思います。
<衛生管理者>
労働安全衛生法第12条では、常時50人以上の労働者がいる事業場では、「衛生管理者」を選任しなければならないことになっています。選任された衛生管理者は、事業所の衛生に関する技術的事項を管理します。
選任しなければならない「事業場の規模」と必要になる「衛生管理者の人数」は、以下のとおりです。
事業場の規模 | 衛生管理者の人数 |
50人~ 200人 | 1人 |
201人~ 500人 | 2人 |
501人~1,000人 | 3人 |
1,001人~2,000人 | 4人 |
2,001人~3,000人 | 5人 |
3,001人以上 | 6人 |
また、次に該当する事業場にあっては、衛生管理者のうち少なくとも1人を「専任」の衛生管理者とすることとなっています。
1)業種にかかわらず常時1,000人を超える労働者を使用する事業場
2)常時500人を超える労働者を使用する事業場で、坑内労働または一定の有害業務に常時30人以上の労働者を従事させるもの
なお、2)の場合で業務の内容がエックス線等の有害放射線にさらされる業務や鉛などの有害物を発散する場所における業務などの場合は、専任した衛生管理者のうち1人を「衛生工学衛生管理者免許」を受けた者の中から専任しなければなりません。
<衛生管理者の職務内容>
衛生管理者は、主に以下の業務を行います。
1)健康に異常のある者の発見および処置
2)作業環境の衛生上の調査
3)作業条件、施設などの衛生上の改善
4)労働衛生保護具、救急用具などの点検および整備
5)衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項
6)労働者の負傷および疾病、それによる死亡、欠勤および異動に関する統計の作成
7)衛生日誌の記載など職務上の記録の整備
また、衛生管理者は、少なくとも「毎週1回」は作業場などを巡視して、設備、作業方法、衛生状態に有害のおそれがある場合は、ただちに労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければなりません。
<資格要件について>
事業場の業種ごとに、選任しなければならない衛生管理者の資格が変わってきます。以下にまとめましたので、それぞれの業種に対応した資格等保有者を選任しましょう。
業種 | 資格等保有者 |
農林水産業、鉱業、建設業(物の加工業を含む。)電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業及び清掃業 | 第一種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許を有する者または医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントなど |
その他の業種
|
第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許もしくは衛生工学衛生管理者免許を有する者または医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントなど |
<産業医>
次に「産業医」についてみていきます。労働安全衛生法第13条で、衛生管理者と同様に常時50人以上の労働者を使用するすべての事業場で、一定の医師のうちから「産業医」を選任し、事業者の直接の指揮監督のもとで専門家として労働者の健康管理などにあてるように規定しています。
ただし、常時3,000人を超える労働者を使用する事業場では、2人以上の産業医を選任する必要があります。
なお、次に該当する事業場にあっては、「専属」の産業医を選任しなければなりません。
1)常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
2)一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させるもの
<産業医の職務>
産業医は、主に次の事項を行います。
1)健康診断および面接指導などの実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること
2)作業環境の維持管理に関すること
3)作業の管理に関すること
4)労働者の健康管理に関すること
5)健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること
6)衛生教育に関すること
7)労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること
産業医は、労働者の健康を確保するために必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理などについて必要な勧告をすることができます。
また、少なくとも「毎月1回」は作業場を巡視し、作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、ただちに労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければなりません。
衛生管理者と産業医は、事業所の労働者数が常時50人以上であれば選任をしなければならないルールになっています。実務上よくあるのが、はじめて従業員数が50人以上になり衛生管理者を選任しなければならないのに、候補の従業員が衛生管理者の試験に合格しないといったケースです。また、衛生管理者だった従業員が退職をしたために、新たに選任しなければならないのにほかに衛生管理者の有資格者がいないといったケースもあります。
衛生管理者の試験は、ただ講義を受ければ良いだけのものではないので、有資格者が1人しかいない事業所や、これから従業員数が50人以上になることが見込まれる事業所では、事前に衛生管理者の有資格者を準備しておくようにしましょう。
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策