過労死の労災認定基準
目次
ときどき、マスコミで「過労死が労災として認められた」と報道されることがあります。仕事が原因で亡くなってしまうのはあってはならないことです。しかし、このような不幸な出来事が起きているのは事実です。
今回は、過労死の労災認定について説明したいと思います。
過労死の定義について
心筋梗塞などの心疾患や脳梗塞などの脳血管疾患は、加齢や食生活などの影響を受けて発症する場合と、仕事が主な原因で発症する場合があります。仕事が主な原因で発症し、結果として死亡した場合のことを「過労死」と呼びます。
これらの脳・心臓疾患が、仕事が原因で発症したと判断する場合の認定基準について、厚生労働省より通達が出されています。
対象となる疾病について
仕事が主な原因で発症する心疾患と脳血管疾患については、対象となる疾病が定められています。脳・心臓疾患の発症と業務との関連性を判断する上で、疾患名の特定は重要です。そのため、万が一、発症して亡くなった場合は、臨床所見、解剖所見、発症前後の身体の状況等から疾患名を特定することになります。
1 脳血管疾患
(1) 脳内出血(脳出血)
(2) くも膜下出血
(3) 脳梗塞
(4) 高血圧性脳症
2 虚血性心疾患等
(1) 心筋梗塞
(2) 狭心症
(3) 心停止(心臓性突然死を含む。)
(4) 解離性大動脈瘤
発症時期の特定について
脳・心臓疾患の発症時期については、業務と発症との関連性を検討する際の起点となるものです。 通常、脳・心臓疾患は発症の直後に症状が出現するとされているので、臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、その日を発症日とします。
また、脳・心臓疾患発症の警告の症状である「前駆症状」が認められ、前駆症状と発症した脳・心臓疾患との関連性が医学的に証明された場合には、当該前駆症状が確認された日が発症日となります。
過労死となる認定要件
過労死の認定には、加齢や日常生活の食生活などの影響を受けて発症したのか、あるいは業務によって明らかな負荷がかかったことにより発症したのかを判定する必要があります。そのため、基準となる認定要件が定められています。認定要件は次の3つがあります。
①異常な出来事
②短期間の過重業務
③長期間の過重業務
① 異常な出来事とは
認定基準のひとつである、異常な出来事は、精神的負荷、身体的負荷、作業環境の変化の3種類があります。これらの定義と具体例については、次の通りです。
(1)精神的負荷
定 義:極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態
具体例:業務に関連して重大な人身事故や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合など
(2)身体的負荷
定 義:緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態
具体例:事故の発生に伴って、救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた場合など
(3)作業環境の変化
定 義:急激で著しい作業環境の変化
具体例:屋外作業中、きわめて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻繁な出入りなど
異常な出来事と発症との関連性については、通常、負荷を受けてから24時間以内に症状が出現するとされているので、発症直前から前日までの間が評価期間となります。
過重負荷の有無の判断や異常な出来事と認められるか否かについては、
(1)通常の業務遂行過程においては遭遇することがまれな事故又は災害等で、その程度が甚大であったかどうか
(2)気温の上昇又は低下等の作業環境の変化が急激で著しいものであったかどうか
などについて検討し、これらの出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かという観点から、客観的かつ総合的に判断することになります。
② 短期間の過重業務とは
短期間の過重業務については、発症前おおむね1週間の業務量、業務内容、作業環境、具体的な負荷要因、同僚の労働者にとっても同様の負荷がかかっているかなどを考慮して総合的に判断されます。労働時間の評価の目安としては、次の3点が特に評価されます。
(1)発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められること
(2)発症前おおむね1週間以内に継続した長時間労働が認められること
(3)休日が確保されていないこと
③ 長期間の過重業務とは
長期間の過重業務については、発症前おおむね6ヶ月間の状況を判断することになります。評価の方法については、原則的には短期間の過重業務と同様の方法となりますが、労働時間の評価の目安としては次の4つを使用します。
(1)発症前1~6ヶ月間平均で月45時間以内の時間外労働は発症との関連性は低い
(2)月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まる
(3)発症前1ヶ月間に100時間の時間外労働があると発症の関連性は強い
(4)発症前2ヶ月間~6ヶ月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症の関連性は強い
労災の過労死の認定には、①異常な出来事、②短期間の過重業務、③長期間の過重業務、の3点をひとつひとつ評価した上で総合判断を行い、業務上の疾病か否かを判断されます。
過労死は絶対に発生させてはなりません。過労死が発生しないように、日々の労働時間管理をしっかりと行っていきましょう。
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策