川島孝一
第119回  投稿:2023.05.15 / 最終更新:2023.05.08

運送業と建設業の労働時間の上限規制

 

 

働き方改革の一環として労働基準法が改正され、大企業は20194月から、中小企業は20204月から時間外労働の上限規制がスタートしました。これまで、自動車運転の事業や建設事業は、時間外労働の上限規制が猶予されていましたが、20244月から上限規制がスタートします。

今回は、最近「2024年問題」と報道されることも増えてきている「自動車運転の事業」や「建設事業」の時間外労働上限規制をみていきましょう。

 

残業時間の上限規制

2024年4月から、自動車運転の事業と建設事業の時間外労働については、以下の上限が設定されます。

 

自動車運転の事業

原則は月45時間・年360時間までであり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。

臨時的な特別の事情がある場合は、年間で960時間を限度に設定することができます。ただし、原則である月45時間を超えてよいのは年間6か月までになります。

 

建設事業

原則は月45時間・年360時間までであり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。

臨時的な特別の事情があって労使合意する場でも、次の3つの条件すべての範囲に収めなければなりません。

①年720時間以内

②複数月平均80時間以内(休日労働を含む)

③月100時間未満(休日労働を含む)

 

②の複数月平均80時間以内ですが、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月のすべての期間をみたときに、1か月当たり80時間以内である必要があります。

また、上の3つの範囲内であっても、原則である月45時間を超えてよいのは年間6か月までになります。

 

自動車運転の事業も建設事業も、労働時間が長くなってしまう傾向がある業種といえます。今後は、労働時間の管理を徹底し、直行直帰や閑散期における週休2日制の導入などといった対応が必要になってきます。

2024年問題

時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針について

時間外労働の上限設定に伴って、36協定の締結内容も変わってきます。20194月に時間外労働の上限が設定された際に、以下の指針も策定されました。

労使間で36協定を策定するときは、この指針の内容に留意する必要があります。

 

①時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめる。

実務では、突発的な残業時間に対応するために残業時間を多く設定する傾向があります。しかし、基本的な考え方としては、時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめられるべきです。

上限が月45時間で規定されているからといって、そのまま45時間で36協定を作成するのではなく、自社の実情に沿った時間を設定する必要があります。

 

②使用者は、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義を負う。

36協定の範囲内で労働させた場合であっても、労働契約法第5条の安全配慮義務を負います。従業員が仕事中に倒れてしまったといった場合に、36協定のルールに沿った運用をしていれば、会社の責任が問われないということはありません。

そのため、次の「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」にも留意する必要があります。

(1)1週間当たり40時間を超える労働時間が月45時間を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まるとされていること

(2)さらに、1週間当たり40時間を超える労働時間が月100時間又は26か月平均で80時間を超える場合には、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いとされていること

 

 

③時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にする。

各種の製造工程において、それぞれ労働時間管理を独立して行っているにもかかわらず、36協定では「製造業務」とまとめているような場合は、細分化は不十分となります。

 

④臨時的な特別の事情がなければ、限度時間(45時間・年360時間)を超えることはできない。

限度時間を超えて労働させることができるケースを定めるにあたっては、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合をできる限り具体的に定めなければなりません。

「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものは認められないことになっています。

 

⑤1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間を超えないように努める。

目安の時間は以下のように定められています。

・1週間:15時間

・2週間:27時間

・4週間:43時間

 

⑥休日労働の日数及び時間数をできる限り少なくするように努める。

 

⑦限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保する。

限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保するための措置について、次の中から協定することが望ましいとされています。

(1)医師による面接指導

(2)深夜業(22時~5時)の回数制限

(3)終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)

(4)代償休日・特別な休暇の付与

(5)健康診断

(6)連続休暇の取得

(7)心とからだの相談窓口の設置

(8)配置転換

(9)産業医等による助言・指導や保健指導

 

⑧限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案して健康・福祉を確保するよう努める。

限度時間が適用除外されている新技術・新商品の研究開発業務については、限度時間を勘案することが望ましいとされています。また、月45時間・年360時間を超えて時間外労働を行う場合には、⑦の健康・福祉を確保するための措置を協定するよう努める必要があります。

 

 

今回は、自動車運転の事業と建設事業の時間外労働の上限規制について説明してきました。2024年まであと1年を切りました。人手不足が顕著な現在の情勢では、直前になって人材を確保して対応するのは難しく、すぐに労働時間を削減する妙薬はありません。

新しい上限規制の時間数を現状では上回っている会社は、今から準備を進めていった方がよいでしょう。

鈴与シンワート株式会社

鈴与シンワートが提供する管理部門の業務ソリューション「S-PAYCIAL」

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