育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
目次
育児・介護休業法と男女雇用機会均等法が改正され、いずれも平成29年1月1日から施行されます。前回の法改正は平成22年に施行されましたが、中小企業は一部施行が猶予されたため、平成24年に育児・介護休業規程を改定した会社も多いのではないでしょうか。
そのため、「またか。」と思われる担当者もいらっしゃるかもしれませんが、法律が改正になった以上、会社は就業規則や育児・介護休業規程や社内書式の見直しを行う必要が出てきます。
改正内容は多岐にわたっていますので、今回から数回にわけて、育児・介護休業法の法改正のポイントを見ていきたいと思います。
<育児・介護休業法とは?>
法律の正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」と言います。
この法律は、育児や家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活とが両立できるように支援することで、その福祉を増進するとともに、あわせて我が国の経済と社会の発展に資することを目的としています。
正式名称がとても長いため、一般的には「育児・介護休業法」と呼ばれています。
法律の沿革を少し紹介すると、育児・介護休業法の前身にあたる「育児休業法」は、平成4年に施行されました。その後、平成7年に「育児・介護休業法」に改正されています。
比較的新しい法律ですが、社会の状況に合わせて、比較的ひんぱんに大きな法改正が行われています。
平成29年の法改正では、以下の部分について、変更や新設が行われました。
1)育児休業
2)介護休業
3)子の看護休暇
4)介護休暇
5)介護のための所定外労働の制限
6)介護のための所定労働時間の短縮等の措置
7)職場のマタニティハラスメントの禁止
この1)から7)までについて、順次説明をしていきたいと思います。
<育児休業の変更点について>
育児休業は、従業員が会社に申し出ることによって子が1歳に達するまでの間、休業をすることができる制度です。また、保育所に入所を希望しているが、入所できない等の理由がある場合は、子が1歳6か月に達するまでの間、育児休業を延長することができます。
今回の法改正では、「育児休業等の対象となる子の範囲拡大」と「有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和」が行われます。
<育児休業等の対象となる子の範囲拡大>
これまでの育児休業の対象となる子は、実子か養子(養子縁組が成立した子)に限られていました。法改正によって、平成29年1月からは、「1)特別養子縁組の監護期間中の子」、「2)養子縁組里親に委託されている子」、「3)その他これらに準ずる者として厚生労働省で定める者に、厚生労働省で定めるところにより委託されている者」のいずれかに該当すれば、育児休業の対象となります。
文章だけを読んでもピンと来ないと思いますので、それぞれ該当する子について詳しくみていきます。
1)特別養子縁組の監護期間中の子
特別養子縁組とは、原則として6歳未満の未成年者の福祉のために特に必要があるときに、未成年者とその実親側との法律上の親族関係を消滅させ、実親子関係に準じる安定した養親子関係を家庭裁判所が成立させる縁組制度のことです。
裁判所が特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を6か月以上の期間、監護した状況を考慮する必要があります。
今回の法改正では、特別養子縁組の成立前の監護期間についても、育児休業を認めることになりました。
監護期間は、原則として家庭裁判所に特別養子縁組の成立の請求をした日から起算することになるため、特別養子縁組の成立の請求が裁判所に係属するまでは、育児休業の対象にならない点に注意が必要です。
2)養子縁組里親に委託されている子
養子縁組里親制度とは、保護者のない児童や保護者に監護させることが不適当であると認められる児童(要保護児童)について、都道府県知事が児童を適切に養育することができると認められる者に子の養育を委託し、将来的には養子縁組を行う制度です。
里親と里子の信頼関係を築くには一定の期間が必要なため、この信頼関係を築くまでの養育期間について、育児休業を取得することができるようになります。
3)その他これらに準ずる者として厚生労働省で定める者に、厚生労働省で定めるところにより委託されている者
児童相談所において、養子縁組里親として委託すべきである要保護児童として手続きを進めていたが、実親等の親権者等が反対したため、養子縁組里親として委託することができなくなることがあります。そのようなケースで、「養育里親」として委託されている子に対しても、育児休業を取得することができるようになります。
このように、実子や養子以外の子を養育するために従業員が育児休業を取得するケースも、今後は発生する可能性があります。実務を担当している方は、詳細はケースが発生したときに確認すれば良いと思いますが、実子や養子でなくても、育児休業の対象になる可能があることは理解しておく必要があります。
なお、実務上で注意をしなければならないのは、「配偶者の連れ子」です。育児・介護休業法では、養子縁組をしていない配偶者の連れ子については育児休業を取得することはできません。
プライベートな内容になるため、なかなか聞きづらいのですが、休業をめぐってトラブルになるケースもありますので留意してください。
<有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和について>
これまでは、有期契約労働者が育児休業の申し出をするには、次の3つの要件をすべて満たす必要がありました。
1)当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上であること
2)その養育する子が1歳に達する日(1歳到達日)を超えて引き続き雇用されることが見込まれること
3)子の1歳到達日から1年を経過する日(子の2歳の誕生日の前々日)までの間に、その労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働者の更新が無いことが明らかでないこと
今回の法改正では、2)と3)の要件が緩和され、「その養育する子が1歳6か月に達する日までに、その労働契約が満了することが明らかでないこと」が代わりの要件になります。
この文章だけを見ると、1歳6か月までの間の労働契約になっていると、育児休業の対象外になるような感じがしますが、そういうことではありません。
その労働契約が満了するときに、契約が更新されないことがあらかじめ明らかになっている場合のみが対象外になります。
つまり、労働契約が更新されるかどうかわからない(終了することが明らかではない)場合であれば、1)の通算雇用期間が1年以上の有期契約労働者は、育児休業を取得することが可能になるということです。
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これから、育児休業や介護休業等の取得を考えている従業員の方から、改正点について問い合わせも増えてくると思います。育児休業を取得できる権利のある労働者であるにもかかわらず、会社の理解が不足していたために育児休業を拒否したりすれば、大きな問題につながりかねません。
今回の法改正では、中小企業に対する猶予措置は特に設けられていませんので、すべての企業が対象になります。厚生労働省から、リーフレットや規程例等も随時公表されてくるはずなので、経営者や実務担当者は情報の収集をし、施行日までに準備をすすめていただければと思います。
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