川島孝一
第49回  投稿:2017.05.30 / 最終更新:2017.06.13

労働時間等見直しガイドラインの活用

前回のコラムで「働き方改革」の一環としての在宅勤務制度について紹介をしました。新聞やニュースでは「働き方改革」という単語を目にしない日はないぐらい、さまざまな報道がされています。

国としては、以前から働き方のルール等を改善して、働く人の「ワークライフバランス」を実現しようといろいろな施策を行ってきました。今から10年前の平成19年12月には、政府・労働者・使用者の代表などからなる「官民トップ会議」でワークライフバランスの実現に向けた方向性を示す「憲章」と、企業や働く人の取組、国や地方公共団体の施策の方針を示す「行動指針」が策定されました。
さらに、その後の施策の進捗や経済情勢の変化を踏まえて、平成22年6月には、政労使トップによる新たな合意が結ばれました。その合意の中で、2020年(平成32年)までに社会全体で達成することを目指す数値目標として、

1.労働時間等の課題について労使が話し合いの機会を設けている割合
・・55.4%(平成27年)→すべての企業で実施
2.週労働時間60時間以上の雇用者の割合
・・8.2%(平成27年)→ 5%
3.年次有給休暇取得率
・・47.6%(平成26年)→70%  などが定められました。

平成22年当時はそれほど多く報道されなかったこともあって、ほとんどの方はあまり聞いたことがない数値目標かもしれません。仮に数値目標を知っていたとしても、中小企業等の経営者や担当者などは自社に置き換えてとらえている方は少ないように感じます。
しかし、政府や行政は、この数値目標を念頭に置きながら「働き方改革」をこれからも推し進めていくことは間違いありません。

国は働き方改革を推進するために「労働時間等見直しガイドライン」を策定しています。今後の方向性を示すものになりますので、今回は、そのガイドラインの内容を紹介していきます。

ガイドラインでは、所定外労働時間の削減や、年次有給休暇の取得率向上など、会社のルールや業務状況などの改善をするための具体例と、従業員が置かれている状況に対して配慮すべき具体例が記載されています。
今回は、前者をその1、後者をその2として紹介をしていきます。

<ワークライフバランス実現のために事業主に求められる取組 その1>

1.労使間の話し合いの場をつくる
労働時間等の見直しを図るためには、それぞれの労働者の抱える事情や企業経営の実態を踏まえ、会社において労使が十分に話し合うことが重要になります。

具体的な話し合いの内容には、以下のような項目が考えられます。
・所定外労働(残業、休日労働)や年次有給休暇の取得率の現状を労使で共有
・長時間労働をしている従業員の心身の健康保持や所定外労働の削減の方策
・健康面に気を付けなければならない人や育児・介護を行っている人など、特に配慮を必要とする労働者への対応
・年次有給休暇の取得率の目標づくり
・年次有給休暇の計画的付与制度の導入など年次有給休暇を取得しやすくする具体策

2.年次有給休暇を取得しやすい環境を整備
年次有給休暇の取得は、労働者の健康と生活に役立つだけでなく、労働者の心身の疲労の回復、生産性の向上など企業にとっても大きなメリットがあります。労働基準法で認められている年次有給休暇の計画的付与制度等の導入をすると、有給休暇の取得率は向上していきます。

他にも年次有給休暇の取得率向上が期待できる具体例には、次のような方法が考えられます。
・上司が部下に対して声掛けをしたり、上司自身が年次有給休暇を積極的に取得する。
・年次有給休暇の取得状況をこまめに確認する。取得状況が低調であれば、取得向上月間を設けるなどして、取得しやすい環境をつくる。

3.所定外労働の削減
労働者の健康で充実した生活のため、所定外労働の削減を図ることが重要になります。具体的な対策は、次のような方法が考えられます。
・「ノー残業デー」や「ノー残業ウィーク」を導入し、計画的に業務を行わせることで、残業をなくす。
・長時間労働が続いている場合は、その原因を検討した上で、人員配置を考慮したり、作業者の増員を図るなど、業務内容の見直しを行う。

4.在宅勤務、テレワークの活用
この項目については、前回のコラムを参照ください。

<ワークライフバランス実現のために事業主に求められる取組 その2>

ワークライフバランスを実現させるためには、労働者各人の健康と生活に配慮して労働時間等を設定しなければなりません。自社の労働者の中に、次にあげるような事情を持っている方がいた場合は、労働者の事情に応じて、適切な対応が必要になります。

1.健康の保持に努める必要があると認められる労働者
・健康診断や面接指導の結果に基づいた医師の意見を踏まえ、必要がある場合には、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少など労働者の健康に配慮した労働時間等の設定を行う。
・病気休暇から復帰する労働者については、短時間勤務から始め、徐々に通常の勤務時間に戻すなど円滑な職場復帰を支援するような労働時間等の設定を行う。
・労働者の心身の健康を守るため、メンタルヘルスケアの実施とあわせ、疲労を蓄積させない、または疲労を軽減させるような労働時間等の設定を行う。

2.育児・介護を行っている労働者
・育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の免除、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置などにより、労働時間等の設定の改善を行うとともに、その内容を労働者に積極的に周知し、制度を利用しやすい環境を整備する。
・特に、子どもの出生時における父親の休暇制度の整備や男性の育児休業の取得促進など男性が育児や介護に参加しやすい環境づくりに努める。
・時間単位付与制度の活用も含めた年次有給休暇の取得促進、所定外労働の削減等により、子の養育や家族の介護に必要な時間の確保を図る。

3.単身赴任中の労働者
・単身赴任者の場合、休日は家族の元に戻って、共に過ごすことが極めて重要であるため、休日の前日の終業時刻の繰り上げや休日の翌日の始業時刻の繰り下げを行う。
・休日前後の年次有給休暇について、時間単位付与制度の活用や労働者の希望を前提とした半日単位の付与を検討する。
・家族の誕生日、記念日等家族にとって特別な日については、休暇を付与する。

4.自発的な職業能力開発を行う労働者
・有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇など特別な休暇を付与する。
・始業・終業時刻の変更や勤務時間の短縮を行う。

5.地域活動などを行う労働者
・地域活動、ボランティア活動などに参加する労働者に対して、特別な休暇を付与する。

 

売り手市場の昨今では、「なかなか良い人材が入社してこない」といった悩みを経営者や人事担当者からよく聞きます。
また、応募者も、残業時間数や有給の取得率といった部分をこれまで以上にチェックしているようです。仮に「この会社は働きづらそうだ」というレッテルを貼られてしまうと、その会社は生き残ることができない時代になってきたとも言えるかもしれません。

会社のルールや慣例を変えるには、多くの時間がかかります。現在検討が進められている残業時間の上限時間等が定められた際に、あわててルールを変更して業務に支障を出してしまうのではなく、余裕をもってルールを見直していった方が、会社にとっても従業員にとってもメリットがあります。
今回、ガイドラインで紹介した内容で、自社でもできそうな項目がありましたら、ぜひ実践をしていただければと思います。

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