病気療養のための休暇や短時間勤務制度
目次
最近ではときどき報道もされるように、がん等の病気の治療のために退職せざるを得ない方が多数いらっしゃるようです。国でも、昨年12月にがん患者の雇用の継続等に事業主の配慮を求めた「がん対策基本法の一部を改正する法律」を成立させ、すでに施行されています。
優秀な社員が一人退職してしまうと、採用や教育のコストなども含めれば会社の損失は計り知れません。もし、病気療養のための休暇や短時間勤務制度が会社にあれば、退職するまでには至らなかったかもしれません。
今回は、病気療養のための休暇や短時間勤務制度についてみていきたいと思います。
特に配慮を必要とする労働者について
以前のコラムでも紹介をしましたが、次にあげるような事情を持っている労働者には、それぞれの事情に応じて適切な対応が必要になります。
・特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者
・子の養育や家族の介護を行う労働者
・妊娠中や出産後の女性労働者
・単身赴任者
・自発的な職業能力を図る労働者
・地域活動やボランティア等を行う労働者
・その他特に配慮を必要とする労働者
今回の、病気療養をしている従業員については、「特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者」に該当します。
病気休暇制度や休職制度については、年次有給休暇と違って創設する義務はありません。しかし、これからは柔軟にこれらの制度を導入することによって、既存の従業員の能力を最大限活かせる組織づくりを考える必要があるでしょう。
病気療養のための休暇について
近年の医療技術の進歩によって、これまでは治らないとされてきた病気が治るようになってきました。その一方で、長期にわたる治療が必要な病気やメンタルヘルス上の問題を抱えながら職場復帰を目指して治療を受ける労働者や、治療を受けながら就労する労働者の数が増加しています。
休職の規定がある会社では、休職期間中に病気が完治しなければ退職としていることが多いと思います。しかし、現在では病気と付き合いながら就労する労働者も増えてきています。正社員はフルタイムの勤務、それが不可能であれば退職という極端な制度のみだと、従業員が長期にわたり治療を続けることになった場合に、会社として対応することが難しくなってしまいます。
このような労働者をサポートするためには、次のような制度の導入が考えられます。
1.治療・通院のための時間単位や半日単位で取得できる休暇制度
2.年次有給休暇とは別に使うことができる年休積立制度や病気休暇制度
3.療養中・療養後の負担を軽減する短時間制度 等
それでは、これらの制度をもう少し具体的にみていきたいと思います。
1)時間単位・半日単位の年次有給休暇について
労働基準法は、年次有給休暇の付与を原則として1日単位としています。ただし、例外として会社と従業員の間で労使協定を締結することによって、時間単位で年次有給休暇を取得することができます。これを、「時間単位年休」と呼びます。
時間単位年休では、通院や子供の学校行事など必要な時間分だけの休暇を取得できるため、多様なニーズに柔軟に対応することができます。
注意すべき点は、年次有給休暇の本来の趣旨を損なわないようにするため、時間単位年休は労働者の希望があることが前提です。また、時間単位年休にすることができる日数は、1年間で5日分までと制限されています。
時間単位年休を導入する際には、以下の項目を労使協定で定めなくてはなりません。
1)時間単位年休の対象労働者の範囲
一部対象外とする場合は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られる。
2)時間単位年休の日数
1日分の年次有給休暇に換算して、1年間で5日以内の範囲で定める。
3)時間単位年休1日の時間数
1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかを定める。1時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げる。
4)1時間以外の単位で与える場合の時間数
この場合は、2時間単位、4時間単位など1日の所定労働時間数を上回らない整数の時間単位で定める。
2-1.失効年休積立制度
付与された有給休暇は、使用しなければ2年間で失効することになります。失効した有給休暇を積み立てておき、病気等で長期療養する場合に限り、積み立てていた休暇を使用できるようにする制度です。
この制度は、大企業ではすでに導入されているケースも多いようです。
2-2.病気休暇制度
私傷病の療養のために、年次有給休暇以外で利用できる休暇制度です。取得できる要件や期間は、労使協議あるいは会社が決定することが一般的です。
多くの企業が導入している休職制度などは、これに該当します。
3.短時間勤務制度
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査 2012年」によると、一定の期間、所定労働時間を短縮する短時間勤務制度を導入している企業は42.7%、そのうち疾病治療のために制度を利用できる企業は54.2%という結果がでています。
育児休業明けの従業員に対して時短勤務を制度化している会社は多いですが、今後は疾病治療についても制度化していく企業が増えていくかもしれません。
これからも、少子高齢化は加速していきます。働き手が少なくなっていく中で、いかに人材を確保して成果を上げていくかが求められています。
病気や怪我は、誰にでもなる可能性があります。今回紹介した病気休暇制度等は、法律で定められた制度ではありません。しかし、育児とは異なり、比較的長期間にわたる可能性のある介護をしながら就業する労働者にも準用することができるかもしれません。
優秀な人材を家庭の事情や本人の体調などにより失うことのないように、あらかじめ検討しておいてみてはいかがでしょうか。
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策