働き方改革~高度プロフェッショナル制度
目次
平成30年7月6日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」には、特定高度専門業務・成果型労働制も組み込まれました。
この制度は、いわゆる「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」と呼ばれている制度です。今回の法案の審議に際しては、マスコミや野党が何度も取り上げた制度ですので、皆さんも耳にしたことがあるかと思います。
今回は、高度プロフェッショナル制度の概要と、以前から存在する専門業務型裁量労働制との違い等について紹介をしていきたいと思います。
労働時間の原則
労働基準法では1日(8時間)と1週の労働時間(40時間)、および休日日数(毎週少なくとも1回)を定めています。
原則は、この時間数や日数を超えて従業員を労働させてはならないというルールです。しかし、現実には繁忙期等で労働時間が伸びてしまうこともあります。そのため、時間外労働・休日労働に関する協定(いわゆる「36 協定」)が存在します。36協定を締結して労働基準監督署長に届け出れば、「法定労働時間を超える時間外労働」と「法定休日における休日労働」が認められます。
36協定は、労働基準監督署に届け出ないと効力が発生しない点に注意が必要です。また、締結する際は、時間外労働と休日労働を無制限に認める趣旨ではないという点を心にとめておく必要があります。
専門業務型裁量労働制とは?
仕事の時間が長くなればなるほど、時間に比例して成果も大きくなるような業務であれば、労使間で36協定を締結し、協定の範囲内で労働時間を長くするのもマネジメントの一つの方法です。
しかし、現代では、かならずしも労働時間の長さに比例して成果が上がらない業務も多く存在します。そのような業務に対応するために、「専門業務型裁量労働制」が作られました。
専門業務型裁量労働制とは、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を労働者の裁量にゆだねることができる業務であれば、制度の導入により、むだな残業代の削減効果が期待できます。
しかし、この制度は法令等により定められた19業務に限定されていますので、どのような業務でも導入するという訳には行きません。専門業務型裁量労働制を導入するためには、労使協定を定めて事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出なければなりません。
法令で定める19業務とは?
専門業務型裁量労働制を導入することができる業務は以下の19業務です。仕事の名称ではなく、実態の業務内容で判断されます。これから導入を検討する会社は、導入の前に専門家や行政機関に確認してから行った方が良いでしょう。
(1) 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2) 情報処理システムの分析又は設計の業務
(3) 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材もしくは編集の業務
(4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6) コピーライターの業務
(7) システムコンサルタントの業務
(8) インテリアコーディネーターの業務
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10) 証券アナリストの業務
(11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12) 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
(13) 公認会計士の業務
(14) 弁護士の業務
(15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16) 不動産鑑定士の業務
(17) 弁理士の業務
(18) 税理士の業務
(19) 中小企業診断士の業務
特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設
労働時間の長さに応じて成果が比例しない業務については、これまでは専門業務型裁量労働制等で対応してきました。
しかし、専門業務型裁量労働制等の制度では、実際の働き方にマッチしていないケースもありました。そのような方を、一定の条件を満たしているのであれば、高度プロフェッショナルとして労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする制度が「特定高度専門業務・成果型労働制」です。
一定の条件とは、以下のようになっています。
(1) 職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)がある。
(2) 高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する。
(3) 年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じる。
(4) 本人の同意や委員会の決議等を要件とする。
高度プロフェッショナル制度と専門業務型裁量労働制の違いは、高度プロフェッショナル制度では「労働時間」「休日」「深夜」の割増賃金の規定が適用除外になるという点です。
これまでの裁量労働制は、あくまでも「1日」の労働時間を一定の時間にみなす制度でした。したがって、仮に1日の労働時間を定時でみなしていたとしても、休日と深夜の割増賃金は必要でした。
今回の高度プロフェッショナル制度は、すべての労働の一切合切をまとめて賃金を決める制度と理解していただければ良いかと思います。
(3)の健康確保措置として、年間104日の休日確保措置を義務化した上で、それに加えてさらに次のいずれかの措置の実施を義務化する必要があります。
①インターバル措置
②1ヶ月又は3ヶ月の在社時間等の上限措置
③2週間連続の休日確保措置
④臨時の健康診断
また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければなりません。
高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、現在のところ「研究開発」「コンサルタント」「金融商品の開発」「金融商品のディーリング」「アナリスト」の5種類が想定されています。これらの業務の中で、具体的にどこまでの業務が対象になるかは、労働政策審議会分科会で検討しており、最終的には省令で定められます。
高度プロフェッショナル制度の導入を検討している企業は、今後の発表を注視しましょう。
-
第138回年収の壁の種類と100万円の壁~103万の壁、130万の壁以外にも「壁」がある~
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策