有期労働契約の解除
目次
ときどき「有期契約を締結している従業員から退職届を提出された場合、会社はそのまま受理しなくてはなりませんか?」と質問をされることがあります。有期契約といっても、会社はあてにしていますので、突然辞められては困ってしまいます。
有期労働契約と無期労働契約の違いは、単に契約期間が決まっているか決まっていないかの差だけではありません。
今回は、有期労働契約のポイントについて紹介をしていきます。
会社が従業員と契約できる雇用期間の長さ
雇用期間を定めている有期の1回の労働契約は、原則として「3年以内」となります。この期間には特例が設けられており、次の(1)から(3)までのいずれかに該当する場合は3年を超えて雇用期間を定めることができます。
(1)専門的知識などを持っている労働者が、その専門的知識を必要とする業務に就く場合には、契約期間を「5年以内」とすることができます。この専門的知識については厚生労働省告示で定められています。
① | 博士の学位(外国において授与されたこれに該当する学位を含む)を有する者 |
② | 公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士、弁理士 |
③ | システムアナリスト及びアクチュアリーに関する資格試験に合格した者 |
④ | 特許発明の発明者、登録意匠の創作者、種苗登録品種の育成者 |
⑤ | 次のイ、ロに該当する者であって、労働契約の期間中に支払われることが確実に見込まれる賃金の額を1年当たりの額に換算した額が1,075万円を下回らない者
イ 農林水産業・鉱工業・機械・電気・土木・建築の技術者、システムエンジニア、デザイナーであって、大学卒業後5年以上、短期大学・高等専門学校卒業後6年以上、高等学校卒業後7年以上の実務経験を有する者 ロ システムエンジニアとして5年以上の実務経験を有するシステムコンサルタント |
⑥ | 国、地方公共団体、一般社団法人又は一般財団法人によって知識が優れたものと認定されている者 |
ただし、専門的な知識を持つ者を雇用しても、その業務内容が専門知識と関係ない場合は特例の5年以内の雇用契約を締結することはできません。このようなケースでは、通常の3年以内の雇用期間が適用されます。
(2)60歳以上の労働者との間に締結される労働契約は、業務内容にかかわらず「5年以内」の期間を設けて締結することができます。
一般的には、高齢者になればなるほど就業の機会は限られてきます。そのため、60歳以上の労働者については、一回の雇用契約期間を長く締結できるように例外が設けられています。
(3)ダムの建設事業や大規模なトンネル工事を行う場合、工期が5年を超えてしまう場合があります。そのような有期事業の場合は、「その事業の完了に必要な期間」の労働契約を締結することができます。
この場合は、具体的な年数が定められているわけではないので、たとえば完工までに10年間必要な事業であれば、10年の労働契約を締結することができます。
有期契約労働者の退職について
有期労働契約は、本来であればその契約期間中は「やむを得ない事由がない限り」会社、労働者双方ともに契約期間の途中で契約を解消することはできないとされています。このやむを得ない事由に該当するケースとしては、会社の倒産や労働者側の病気や傷病などが想定されます。
しかし、転職のために退職届を従業員が提出してくるといったことは珍しくありませんし、アルバイト(これもほとんどの場合「有期労働契約」にあたります)の中には突然来なくなるケースもあるようです。
元々の趣旨であれば、会社がすぐに退職を認めなくてもルール上は問題ないことになります。さらに、会社は途中で一方的に契約を解除した有期契約労働者に対して、損害賠償請求をすることも可能です。しかし、損害賠償を盾にして契約期間満了まで働かせたとしても、従業員はイヤイヤ働くことになります。このような従業員に対して仕事の成果等を求めることは難しいですし、職場内の雰囲気が悪くなることも考えられます。そのため、会社は辞めさせないようにするのではなく、今後の契約をよく話し合って双方が納得して退職時期を決めることが大切です。
有期契約の期間途中の解約については、労働者には例外が認められています。労働者側は、労働契約を締結して1年を経過すれば、契約期間中であってもいつでも退職が認められます。これは労働者だけに許されているルールです。
会社からの契約期間の途中での解約は、いわゆる「解雇」にあたります。判例では、無期契約である正社員に対する解雇よりも、むしろ要件が厳しく見られることもあります。アルバイトだからといって、会社の事情ですぐ辞めさせられるという考え方が改めた方が良さそうです。
有期契約労働者への雇止めについて
契約社員などの有期契約労働者の労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約期間が満了する「30日前まで」に予告をする必要があります。これを「雇止め」と呼びます。
雇止めの予告の対象となるのは、次の3つのいずれかに該当する有期契約労働者です。
①有期労働契約が3回以上更新されている場合
②1 年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され、最初に労働契約を締結してから継続して通算1年を超える場合
③1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合
今回は、有期労働契約についてみてきました。有期契約には特有のルールがあるのですが、会社側は「有期契約だから」と簡単に考えているケースもあるようです。
労働者とのトラブルに発展しないように、有期契約特有のルールをあらためて確認してみてください。
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策