増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
目次
新型コロナウィルスの影響もあり、最近では副業や兼業を行っている方が増加しているようです。
前回は、兼業・副業を認める場合の会社が留意すべき点を中心に説明しました。今回は、兼業・副業をした場合の労働時間の考え方について説明します。
労働時間の通算について
労働基準法では、「1日(8時間)」「1週間(40時間)」の労働時間と休日数(毎週少なくとも1回)を定めています。原則として、この時間数や日数を超えて従業員を労働させることはできません。しかし、現実には繁忙期等で労働時間が伸びてしまうこともあるため、時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36 協定」)が存在しています。36協定を締結して労働基準監督署長に届け出れば、協定の範囲内で「法定労働時間を超える時間外労働」と「法定休日における休日労働」が認められます。
副業・兼業をした場合は、複数の勤務先での労働時間を通算して労働基準法が適用されます。法定労働時間は労働時間を通算する場合のポイントになりますので、改めて押さえておきましょう。
労働基準法第38条第1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」ものとされています。簡単に言えば、午前中に4時間働き、午後に3時間別の場所で働いた場合は、その日の労働時間は7時間としてカウントされるということです。
この規定は、同じ会社の異なる場所で勤務する場合も、副業・兼業のように複数の会社にわたる場合も適用されます。
ただし、業種や契約形態によって、労働時間の通算が行われない場合もあります。次のいずれかに該当するようなケースでは、労働時間は通算されません。
・労働基準法が適用されない場合
(例:フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等)
・労働基準法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合
(例:農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度適用者等)
もちろん、「労働時間の通算は行われない」からといって、無制限に働かせて良いわけではありません。過労等による健康障害リスクや、長時間労働によって業務に支障が生じたり、効率が低下することも起こり得ます。副業・兼業を行っている方からの申告等により、他社の就業時間を把握し、就業時間が長時間にならないようにしっかりとマネジメントをしていく必要があります。
労働時間を通算した結果、法定労働時間を超えて労働させる場合には、使用者は、自社で発生した法定外労働時間について36協定を締結した上で、割増賃金を支払う必要があります。これらの労働基準法上の義務を負うのは、副業や兼業を行っている労働者を使用して法定労働時間を超えて労働させた使用者です。
労働時間の通算例
労働時間の通算は、まず両方の労働契約による所定労働時間を合計します。それにより法定の労働時間を超える場合は、「後から契約を締結した会社」が割増賃金を支払います。
所定労働時間を通算しても法定労働時間を超えない場合は、両方の所定労働時間の合計に、実際に行った時間外労働を足していき、法定労働時間を超えたところから割増賃金が発生します。この場合は契約の後先ではなく、「時間外労働の発生順」に支払い義務が生じることになります。
前者は主に「片側がフルタイムで、勤務終了後や土曜日等を利用して副業や兼業を行うケース」、後者は「短時間のアルバイトを複数行うケース」です。
例1と例2は前者、例3は後者のケースの具体例になりますので、確認してみてください。
例1:A社で1日の労働時間が8時間の雇用契約を結んでいる労働者が、B社で新たに1日の労働時間が2時間の雇用契約を締結した場合
A社の労働時間は8時間であるため、残業を行わない限りA社には割増賃金の支払い義務はありません。後から雇用契約を締結したB社で勤務する時にはすでに8時間働いているため、B社で労働する時間はすべて法定時間外労働時間となります。そのため、B社では36協定の締結と届出が必要となります。また、B社で労働した2時間は法定時間外労働であるため、その労働について、割増賃金の支払いを行わなければなりません。
なお、A社の始業時刻前に、B社で2時間働いた場合であっても、A社でその日に8時間勤務すれば、その日の労働時間は10時間になります。この場合も、後から雇用契約を締結したB社が割増賃金を支払う必要があります。
例2:A社では、「労働日は月曜日から金曜日、所定労働時間8時間」の内容で労働契約を締結している労働者が、B社と新たに「労働日は土曜日、労働時間5時間」の内容で労働契約を締結した場合
A社での1日の労働時間は8時間です。月曜日から金曜日までの5日間で、週の労働時間は40時間となります。週40時間であれば、法定労働時間内の労働となるためA社に割増賃金の支払い義務は生じません。
A社の休日の土曜日にB社で5時間労働すると、労働時間が週の法定労働時間に達しているため土曜の労働はすべて法定時間外労働となります。そのため、B社は、36協定の締結と届出を行った上で、5時間の労働に対して割増賃金の支払いが必要となります。
なお、A社の休日が水曜日と日曜日で、休日の水曜日にB社で働く場合でも、後から雇用契約を締結したB社の5時間が割増賃金の支払い対象になります。
例3:A社と「労働時間3時間」という労働契約を締結している労働者が、新たにB社と、A社における労働日と同一の日について、「労働時間3時間」という労働契約を締結し、ある日にB社で6時間労働して、その後A社で4時間労働した場合。
後からB社と雇用契約を締結した段階では、労働者がA社とB社で労働契約とおりに働くのであれば1日の労働時間は6時間となるので、法定労働時間の範囲内になります。
B社での勤務が終了してから、A社で働くことになっている日に、B社で労働時間を3時間延長した場合、その日はまだ6時間しか働いていません。しかし、その日にA社で3時間働くことはすでに分かっている(所定労働時間)ので、その3時間を足すと9時間になります。したがって、B社では1時間の割増賃金を支払う必要があります。
その後、A社に移動し、A社でも1時間延長しました。この場合は、すでにその日の労働時間が8時間に達しているので、A社でも1時間の割増賃金を支払わなければなりません。
もちろん、A社、B社とも36協定の締結と届出は必須です。
このように副業や兼業を認める場合には、自社以外での労働時間も把握していく必要があります。次回は、労働時間の確認方法等を説明したいと思います。
-
第138回年収の壁の種類と100万円の壁~103万の壁、130万の壁以外にも「壁」がある~
-
第137回対象者の拡大が見込まれるストレスチェック制度
-
第136回アルバイトの1ヶ月単位変形労働時間制の適用
-
第135回健康保険証の廃止
-
第134回育児介護休業の改正
-
第133回労働時間の適正な管理方法
-
第132回バス運転者の改善基準告示~その3
-
第131回バス運転者の改善基準告示~その2
-
第130回バス運転者の改善基準告示~その1
-
第129回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示~その2
-
第128回タクシー、ハイヤー運転者の改善基準告示
-
第127回トラック運転者の改善基準告示~その2
-
第126回トラック運転者の改善基準告示~その1
-
第125回運送業における時間外労働の上限規制
-
第124回建設業における時間外労働の上限規制
-
第123回最低賃金の対象となる賃金
-
第122回医業における時間外労働の上限規制
-
第121回年次有給休暇と割増賃金
-
第120回会社の管理職と労基法の管理監督者
-
第119回運送業と建設業の労働時間の上限規制
-
第118回給与のデジタル通貨払い~その2
-
第117回給与のデジタル通貨払い
-
第116回障害者雇用率の引き上げ
-
第115回健康経営について
-
第114回社会保険加入の勤務期間要件の変更
-
第113回勤務時間中の喫煙と休憩時間
-
第112回男女の賃金の差異の情報公表~賃金差異の計算方法
-
第111回男女の賃金の差異の情報公表
-
第110回アルコールチェックの義務化
-
第109回新型コロナウイルス感染症の後遺症の労災認定
-
第108回労働時間の判断基準
-
第107回労働時間と休憩時間
-
第106回夜勤シフトと休日の関係
-
第105回有給休暇の買上げ
-
第104回2022年の法改正項目~社会保険の適用拡大と女性活躍法
-
第103回2022年の法改正項目~育児介護休業法の改正
-
第102回2022年の法改正項目~パワーハラスメントの防止対策
-
第101回休憩時間のルール
-
第100回労働者代表の選任
-
第99回令和3年 育児休業法の改正について~その2
-
第98回令和3年 育児休業法の改正について
-
第97回過労死の労災認定基準
-
第96回テレワーク時の労災~通勤災害
-
第95回テレワーク時の労災~その1
-
第94回70歳までの雇用延長~その2
-
第93回70歳までの雇用延長~その1
-
第92回同一労働同一賃金と最高裁判例
-
第91回増加する兼業・副業~その3 通算労働時間の確認方法
-
第90回増加する兼業・副業~その2 労働時間の通算
-
第89回最低賃金の引上げ
-
第88回コロナ感染と通勤災害
-
第87回コロナ感染と労災認定
-
第86回パワハラ防止法~その8
-
第85回パワハラ防止法~その7
-
第84回パワハラ防止法~その6
-
第83回パワハラ防止法~その5
-
第82回パワハラ防止法~その4
-
第81回パワハラ防止法~その3
-
第80回パワハラ防止法~その2
-
第79回パワハラ防止法~その1
-
第78回労働者派遣法の改正~労働者の待遇の情報提供
-
第77回労働者派遣法の改正~その2
-
第76回労働者派遣法の改正~その1
-
第75回1号特定技能外国人の判断基準~その2
-
第74回1号特定技能外国人の判断基準~その1
-
第73回新しい在留資格
-
第72回有期労働契約の解除
-
第71回働き方改革~新36協定の内容
-
第70回働き方改革~36協定の締結内容の変更
-
第69回働き方改革~同一労働同一賃金
-
第68回働き方改革~産業医の活用と機能強化
-
第67回働き方改革~高度プロフェッショナル制度
-
第66回働き方改革~フレックスタイム制の改正
-
第65回働き方改革~その2
-
第64回働き方改革~その1
-
第63回安全衛生管理体制~その2
-
第62回安全衛生管理体制~その1
-
第61回会社が行う健康診断~その2
-
第60回会社が行う健康診断~その1
-
第59回就業規則のいろはのイ
-
第58回労働契約の申込みみなし制度
-
第57回改正労働者派遣法の2018年問題
-
第56回いよいよ始動する無期転換ルール
-
第55回働き方改革を実現するために(その4)
-
第54回働き方改革を実現するために(その3)
-
第53回働き方改革を実現するために(その2)
-
第52回働き方改革を実現するために(その1)
-
第51回病気療養のための休暇や短時間勤務制度
-
第50回年次有給休暇の取得率の向上と一斉付与
-
第49回労働時間等見直しガイドラインの活用
-
第48回テレワークの導入と労働法の考え方
-
第47回管理職と管理監督者の違い
-
第46回同一労働同一賃金の行方
-
第45回時間外労働、休日労働に関する協定の重要性
-
第44回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その5 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第43回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その4 育児介護休業規程の改正ポイント~
-
第42回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その3 子の看護休暇等の改正ポイント~
-
第41回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その2 介護休業の改正ポイント~
-
第40回育児・介護休業法改正と会社の対応 ~その1 育児休業の改正ポイント~
-
第39回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その5 高ストレス者への面接指導の方法と注意点~
-
第38回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度~その4 高ストレス者の選定基準と診断結果の通知~
-
第37回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その3 調査票作成編~
-
第36回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 ~その2実施方法編~
-
第35回本年中に実施が義務付けられたストレスチェック制度 その1
-
第34回在宅勤務制度と事業場外労働の規程例
-
第33回通勤災害の対象となるケース
-
第32回ついに成立した改正労働者派遣法~その3
-
第31回ついに成立した改正労働者派遣法~その2
-
第30回ついに成立した改正労働者派遣法~その1
-
第29回いよいよ通知がはじまるマイナンバー
-
第28回日本で働くことができる外国人
-
第27回いよいよ成立が見込まれる労働者派遣法
-
第26回休職中の社会保険料の取扱いと休職規定サンプル
-
第25回慶弔休暇のルールは就業規則等で明確にしておこう
-
第24回来年1月開始~マイナンバー制度 その3
-
第23回来年1月開始~マイナンバー制度 その2
-
第22回来年1月開始~マイナンバー制度 その1
-
第21回パートタイム労働法の改正と社会保険の適用
-
第20回急増する労務トラブルの解決機関にはどのようなものがあるか
-
第19回精神障害と労災認定
-
第18回解雇は最終手段?
-
第17回今の法律でもできる、成果で従業員を評価する仕組み
-
第16回労働組合のない会社必見!!~労働組合の基礎知識~
-
第15回残業代を定額で支払うのは
-
第14回法改正が続く有期雇用労働者との雇用契約
-
第13回どんな業種でも起こる労働災害の申請手続き
-
第12回賞与を支給すると逆効果??
-
第11回インターン生であれば労働者ではないのか
-
第10回会社に有給休暇を買い取ってもらえるようになる?
-
第09回アルバイトが引きおこす「悪ふざけ」への人事的対応
-
第08回大々的に行われる「ブラック企業」対策